正義と混沌

夢の違和感


まえもくじつづき




今日も僕は夢を見ている。
大切な兄弟と喧嘩をする夢だ。
 
 
 
僕の兄弟は綺麗だから、汚いものが寄ってくる。
僕はそれを悪いものだと決めてかかり、自慢の剣を振り回し、
綺麗な兄弟を守り続けていた。
 
でも兄弟は汚かったものに涙を流すんだ。
そうしてそれにすり寄って、綺麗な体を汚してしまう。
 
汚れても兄弟は綺麗だった。
汚れた体を見ても、僕は怒らない。
兄弟の汚れた体を洗ってあげられるから。
 
つるりとした輝く肌に、僕はすり寄った。
綺麗な兄弟、僕のもの。
汚れを落とすたびに兄弟は美しくなっていく。
僕が優しく撫でてその汚れを落とすから。
 
その綺麗な兄弟はますます輝いて、
ますます汚いものが寄りつくようになってしまった。
僕は自分の体が汚れるのも気にせずに汚いものをぐしゃぐしゃに斬り殺す。
 
おまえ、ら、みたいなきたない、もの、に、
ぼくの、きれいな、きょうだい、を、さわ、らせて、なる、も、の、か!
 
真っ黒になった僕を見て、
真っ白な兄弟はさめざめと泣き出した。
 
どうして泣くの? 君は綺麗だよ。
さあ笑っておくれ、僕だけに。
 
兄弟は涙を流しながら僕に言う。
もう誰も殺すのをやめて、と。
 
どうしてだい? 君に徒なすものを殺しているだけじゃないか。
 
なんだって? そんなことしてもらわなくてもいいだって?
 
君は僕に守られていれば良いんだ!
何も出来ないんだから君は!
僕が居なくちゃ何も出来ないんだ! そんなこともわからないのかい?
 
教えてあげるよ、美しい兄弟、その無力さを。
 
僕は輝く兄弟に汚れきった黒い剣を埋め込んだ。
輝く兄弟が僕で汚されていく。僕が兄弟を汚している。
わかるでしょう、美しい君は何も出来ないってこと。
 
ねえ称えてよ、僕を必要だと抱きしめてよ!
 
粉々になっても兄弟は相変わらず美しかった。
言葉はもう話せない。けれど、ぼくには、わかるよ。
ぼくがたいせつだってこと、よおくわかったって、またたいてることを。
 
僕は兄弟の残骸を抱きしめようと手を伸ばした。
その腕より先に、僕よりもっともっと黒く汚れたものが、きらきらした兄弟をすくい上げた!
 
僕は吠えて怒りにまかせ剣を振りかざす!
 
綺麗な兄弟を抱いた真っ黒は僕の剣をへし折り、粉々に砕いた。
 
 
 
僕は目を覚ます。
世界の始まりの神話をもじったようなその夢は、
僕に同調と嫌悪感を求めてくる。
汗ににじんだシーツを抱きしめ、ベッドから降りるとカーテンを開いた。
 
どこまでも黒い闇に白銀が瞬いている。
 
同じような夢を見る日が多くなっていた。紋章を得てからは、特に酷い。
そして目覚めた後は、いつも右手にある黒き刃の紋章がうずき出す。
夢の中の僕がこの紋章だとすれば、
ではあの美しい兄弟は……。
 
ちがう、そんなことはありえない。
この夢は、いつも内容が少し違う。
今回は、僕の迷う心のせいだ。それだけだ、それだけなんだ。
ルカ・ブライトをリオウに倒させるための書状を作り、
それをレオン・シルバーバーグに託してしまったことに反応して脳が見せただけなんだ。
 
決して、リオウに人殺しをさせたい訳じゃない。
人殺しをしてもなお、気丈に振る舞う僕を尊敬してほしいのだなんて思っていない。
 
僕はカーテンを力強く閉めると、乱暴にベッドにもぐりこんだ。



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