ほうと鳴くのに君はなく

希望、すくい上げ


まえもくじつづき




グレミオは力を無くしたティルの体を背負い、キーロフの宿屋まで戻ってきていた。
ベッドに背負っていた体を降ろすと、右手を押さえたままティルは横たわる。
 
ティルの悲しみに、悲嘆に、紋章が同調し、悲しみの歌声が体中を支配していく。
頭が鮮烈な痛みに耐えきれずめまいを発生させる。こんなことは初めてだった。
紋章と自分の相性は最高みたいだな、と
痛みに気を失うまでの一瞬の気楽さで、ティルは心の中で笑って見せた。
 
ティルが次に目を覚ましたときには紋章の悲しみはひっそりと静まっていた。
幾分すっきりした頭で、心配して様子をうかがうグレミオに声を掛ける。
 
「次に何をするか決めた」
 
思ってもみない言葉に、ティルをのぞき込んでいるグレミオは目をまん丸と開き、瞬きを繰り返した。
 
「グレミオは、ハイランドのどこにコトが住んでいるか知ってるんだろ?」
「ええ、まあ、街の名前ぐらいですが」
「そこに行って、成長したコトを見守ろうとおもうんだ」
 
たぶん死ぬまで、とは口にせず、ティルはグレミオに笑いかけた。
 
「でも今は向こうの戦争が激しくて、関所を通るのも難しいんですよ」
「どれだけ遠回りしてもいい。行くんだ、ハイランドへ。いいだろグレミオ」
「まあ、目的があるのはよいことだと思いますが」
「よし、決まり!」
 
ティルは右手をさすりながら笑った。


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