ほうと鳴くのに君はなく

冷たい村


まえもくじつづき




酷い有様だった。
すすで汚れ、壊れ、朽ちている民家。
植物の育たない枯れた大地。
復興させようにも、これじゃ何も出来ないんじゃないのか、と
ティルは村にやってきたことを後悔し始めていた。
この凄惨さは気を滅入らせる。
何よりも先の赤月帝国が下した政治上仕方の無かったことだという自国領土の殲滅。
父のやってきたことの負の部分を見せつけられているようで、気持ちが悪くなるのだ。
 
そのなか、やはりブラックマンは一人、村の一角を耕していた。
 
「リーダー殿、お久しぶりです」
「……ブラックマン。お前の夢はここで叶えられそうか」
 
小さな農地を見れば、いつかはじめてこの孤高の農夫と出会ったときと同じく、新芽が芽吹き輝いていた。
しかし、どこにも成長の成果は見られない。
 
「……むずかしい、むずかしいことです。ここでは芽が出ても枯れてゆく」
 
眉を寄せ、首をやんわりと横に振る姿に、ティルはわからないと声を掛けた。
 
「こんなやせた土地じゃ無理だ。何より、育つ環境じゃないだろ、寒いし」
「しかしこの村は綿花の特産地だったのです。綿のかわいらしい花が、村中に咲き誇る、静かな良い村だったのです」
「信じられないな」
「私は当時を知っています。だから、あきらめられないのです」
「ふうん……」
 
ブラックマンの言葉を聞いても納得できない表情のまま、ティルは農夫に別れを告げた。
その背中にブラックマンの声がかかる。
 
「まだ酒場にカレッカの住人が居ます。彼から話を伺ってみては」
「ありがとう」
 
村の過去の話を聞いて何になる、そう思うティルにグレミオはこれも勉強ですよ、と諭してかかってくる。
しょうがない、グレミオの顔を立ててやるよ、とティルは言いつつも内心楽しみだった。
長い人生の中で終わりのないものは知識だ。
ティルの足は寒空の元冷たい土を踏みしめていく。



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