もとめるものじつげんするもの(スマホアプリになっちゃったら)

06


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薄ガラスの前で向かい合い、言葉を聞く。その羅列は常に一方的だ。
おれは何度貴様の首を欲したことか。
時に幼い姿、時には性別さえも異なる姿、
どう姿を違えようと欲しい首は貴様という固有名詞で変わらない。

ガラスの前から貴様は自由に移動する。時には数分、ほとんど数年。
思い出したように戻ってきては、その姿を変えている、しかしおれにはそれが貴様だと分かる。

<まるで恋のようだ、一方的で、ぜったいに届かない>

笑う、そしてまた去り……次はいつやってくる?
ガラスのかたちはいろいろだ。小さいものや、大きいもの、しかし触れには来てくれない、否、来られない。
世界は過ぎるのだ、しかし、いつかこの手で触れるときがやってくるはずだと、男は理由のない確信を持つ。

「そのときは首とは言わず、全てを奪い去ってやる」



「やあ! 来たよ」

少年は男の前に立っている。男は驚いた。なんの気配もなく、少年が目の前で笑っていたのだ。

「……一体、何が起こったというのだ」
「なんかさ、ここの世界史がごちゃごちゃになって敵味方の区別もなくなって、自由にパーティを組めるようになったらしいんだ。だからぼくは、いの一番でここへ来た」

無意識に首をかしげた男に、少年は手を伸ばす。

「ぼくと冒険しようよ、ルカ」
「それでなんの得があるというのだ」
「ルカでも損得考えるんだね、得なら一つしかないよ、終わりのない世界だ」
「終わりならあってないようなものだ。何千何万のお前と数え切れないほどの終わりを迎えたことをおれは忘れていない」
「……その何千何万分の一のぼくも、君を忘れては居なかった。もしかしたら、もっとたくさんのぼくも、君を思い続けてる」

男はその言葉に、何故かとてつもない浮遊感を覚えた。

「馬鹿馬鹿しい」

少年は笑う。

「世界が過ぎても、どんなかたちになろうとも、みんな、忘れていないし可能性を信じてた。ルカだってそうだろ?」
「……お前の首を獲ることに関してはな」
「それは物騒だなあ……あ、それじゃあさ、ぼくの首を取りに来るルカとの戦いにいってみない?」

「貴様、何を言っている」
「だから、言ったでしょ、世界史がぐちゃぐちゃだって。いろんなぼくがいるし、ルカだって、いろんなルカが居る、それだけ」
「貴様の首を獲るのはおれだ」

「じゃあ、ルカからぼくを守ってよ、ルカ。そうしてからぼくの首を獲ればいいじゃないか」
「……混乱してきたな、おれから貴様を守って、おれが貴様を奪うのか、妙な話だ」

たしかに、自分の願いだったはずだが、と男は顎に手を置いた。しかし、少年の言う通りだとするのなら。
この終わらない世界において、その命を早々に奪うことは、深く長い充足感を男に与えるものなのか?

「とりあえず、やってみようよ。ぼくもまだよく解っていないんだ、慣れてからでも大丈夫だよ、きっと」

少年は巻物を広げ、浮かび上がった歴史を指でなぞった。
それを覗き込むと、思うよりも顔が近い。少年も気づき微笑むと、近しい頬に唇を押し付けた。

「……こういうことも、出来るようになったんだよ」

悪戯っぽく笑う少年に、男は目を見開いて、抱いていた、まるで恋のような感情が昇華されるのを感じていた。現金なものである。




※スマホアプリに幻水が来て欲しいなあという散文でした。
正直、スマホのゲームは終わりがない故に没頭できた試しがないので、続けられるのか、個人的に不安であったりもします。



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