袖ふれあえば黎明の縁(平行世界論理のクラウスと主人公)

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交易税がどうにもおかしい。
多量に徴収をかけられているとの抗議文に驚き、ラダトへ馬を走らせたのは、秋も更け水の冷たい、きれいな日のこと。


税務官の汚職を言及し、対処を終わらせ、ひと息つこうと宿へ足を向けた先、見知った人物に出会った。
それはお互い目をまん丸にして、驚きの反応としてはまるで鏡合わせのようだった。
先に破顔したのは彼だ。


ほおずきを鳴らすように息を吹き出して、それから笑う。


こんなとこでクラウスに会うとは思わなかった!


それはこちらも同じことなのに、彼の口から出た名前のひびきに、言葉を失ってしまう。
全身に血が駆け上り、話したいこと、聞きたいことが声帯からではなく皮膚呼吸から飛び出していきそうになる。


どうしてルカ様の前から姿を消したのですか
神様になられたというのは本当なのですか



出ない言葉に彼はうなずき、片手をふりあげると宿に向かって指し示す。



まあ、ゆっくり腰を落ち着けて話そうよ。クラウスには本当のことを話すから。


僕には、本当のことを教えてくれる……? ルカ様も知らないことなのだろうか。
従者に断りを入れふたりきりになろうとして、理由につまる。


「ぼく、彼とは古い友人なんです」


にっこりと笑って、まごつく言葉を修飾してくれる彼に、感謝と、そしてよくわからない黒々とした感情が胸に湧く。
友人、古い……古い、という単語にいらついているのだろうか。


ともかく、理解を得られた僕たちは、ふたりで宿へと足を運んだ。
通されたテーブルに落ちつくと、あらためて彼の姿に目を留める。
星見の衣装……なのだろうか、全体にゆったりとした、皮膚を露出させない服装だった。
高級そうかといえばそうではなく、安っぽい、かすれた布地で世界と調和している。




ぼくの服装、へんかな?


い、いえ、活動的なイメージがあったもので、不思議に感じてしまって


うーん、そうだよね、でも、だからこの格好なんだよ


頼んでいた濁り酒とアラの煮付けで乾杯し、彼の身の上を聞いた。


あなたは、それでいいのですか、ひとり、そのまま、生き続けるなんて……私には……


でもね、これが一番いいと思うんだよね。一番正当性があって迫害を受けにくい


私なら、ルカ様なら、そんな迫害など、起こしません!


……わかってる。だから甘えたくないんだ





彼の考えてることが、よくわからなかった。




「ねえクラウス、約束してくれるかな」


混乱しているところへ声がおり、反射的に返事をしてしまうと、彼は出会ったときと同じ笑顔で言葉を紡ぐ。


「ルカには、絶対話さないでね」


……もちろん、あなたと私だけの秘密です


「よかった。さすが、持つべきものは友達だ」


テーブルに肘をついて安心した笑みをこぼす彼の気持ちや考えは僕にはかり知れることではないのだろう。
だから、僕は僕のできることで、あなたの意志についていく。




「あなたは、ひとりになってしまう……」
「うん、でも、君の血脈が、この国が、続いていく限り、きっと完全なひとりにはならないよ」


「そう、ですね……私も、ウィンダミア家の名誉と誇りに賭けて、あなたの永久の友人であるよう、説いていくつもりです」
「あはは、重いけど、嬉しいなあ」



あなたの背負っている何かを少しでも軽くできるのなら、あなたと永く友垣であれるのならば。
僕は秘密を共有する人間のひとりとして、軽やかにこの場は見送ろう。


彼は手をふって、僕は一礼して、ふれあった袖をほどいた。






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