ほうと鳴くのに君はなく
新しい国を背に
新しい国を背に向けて歩き出したとき、
どこに行くんですか、と訊ねられたら、こう言おうと考えていた。
ティルは月明かりの下、自分を恐れることなく付き従う最愛の家族に向かって声を出す。
「とりあえず、たどっていこうと思って」
「たどる? なんですか、坊ちゃん」
ティルの言う言葉がわからないかのように首をかしげるグレミオに、
わからないのかな、と笑いながら少年は息を吐く。
「僕が立ち寄った場所に。戦いが終わった後の世界を眺めて回るのもいいんじゃないかって。時間はたっぷりあるんだからさ」
少年のからっとした物言いに、グレミオはそっと目を伏せる。
それを了承と見たティルは、補整された石畳を歩いていく。
テッドという名の、自分と唯一対等にあった大切な親友。
彼から託された紋章に、助けられてきたことを感謝こそすれ、恨みなど抱くはずはなかった。
それに、魂を刈り取る闇の紋章から聞こえる悲しい声は、自分と同調して深く心地よいから。
かなしい、かなしい、悲しいとすすり泣く声は、泣けない自分の代わりに嘆いてくれているのだと。
かなしい、かなしい、かなしいと。
さて、いくら命をそばに置いても悲しい紋章はどうすれば泣き止んでくれるのだろう。