滑稽な平行世界論理

滑稽な一般論-05-


まえもくじつづき







その日の夕食はティルさんからのリクエストでビーフシチューになり、
ぼくは彼から土産に受けとったカナカンのワインでシチューを仕上げる。



ルックも機嫌が悪そうにはしていたが夕食の場には姿を現し、共に美味しい時間をすごした。



「君、何でも出来るんだね」
「出来ないことの方が多いですよ」



ティルさんの言葉に苦く反論しながらぼくたちふたりでワインをたしなむ。



レックナート様とルックは早々に自室に戻り、
ティルさん用の客室がないことから彼は居間のソファに泊まることになり、
それが申し訳なくて、こうして酒の席につきあっている。



「生き神にはもう当分なれそうにないね」
「そうですね……あと百年くらいは、ここで住み込みで働かなくちゃ無理でしょうね」



ぼくを知っている全ての人が小さくなって堅くなって潰れていって軽くなるまで、
気の遠くなるような時間に思えるし、
その実、すぐきてしまいそうな時の流れ。



「神様って言うのは、一種の狂言だよね、レックナートのさ」
「まあ、ティルさんと境遇は変わりませんしね」



「うん、そうだよね、だからさ」
「はい?」



「百年経ったら、一緒に旅しようよ。一人より二人のほうが何かと都合が良いと思うし」
「あ……それ、前の……冗談かと思ってました」
「せっかく同じ性質の人間と出会えたんだよ? 夢見たって良いじゃないか」
「夢って……そんな大層なものじゃないですよ」
「でもぼくの親友は、何百年も一人きりだったよ。それがすごくつらかったこと……今なら少しだけどわかる」
「…………」



何百年も、ひとり。
懐かしい場所がどんどん新しくなっていく感覚を、
生き続ける人間は耐えていけるのだろうか。
ぼくも、彼も……ひとり。



「ええ……はい、いっしょに、旅、しましょうか」
「ほんとう!?」



ティルさんの顔が輝く。本当にうれしそうに。



「酒に酔った勢いとか、あとで逃げ口上にするのなしだからね?」
「はい、大丈夫です、ちゃんと覚えてます」



百年後、一緒に新しくなった世界を見て回りましょう。
そう約束して、彼はまたひとり、そのときがやってくるまで一人旅に出て行った。



彼の方がぼくより何百倍も強い人だ、そんなことを思いながら三人で見送った。





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