滑稽な平行世界論理

滑稽な一般論-02-


まえもくじつづき







紋章の継承はこっそりと滞りなくおわり、祭壇にはイミテーションを置くことになった。
これは予防線だ。ぼくへの感心を薄めるために、出来る限り周りに与える足がかりを潰すためだ。
ラウド隊長がナナミやジョウイに話せば、ふたりはきっと探しに来るはずだから……
見つけられるという希望を二人から取り除くための措置。



心は痛いが、自分勝手で決めたこと、これだけの罪悪感で済むのなら、むしろ薄情な方だろう。



「リオウが来てから、家がきれいになりましたね」




レックナート様とお茶を飲んでいると、ほうっと息をつきながらそんな言葉が空気に溶けた。




「片付け方なんですよね」



彼女は、なんというか、片付けが出来ない女性なのだ。
出したら出しっぱなしだし、もらったらもらいっぱなし、ゴミをゴミに出来ない、というか。



「ルックのかんしゃくも少なくなりましたし」



今まではルックが行ってきたものを、住まわせてもらう代わりに、と全ての家事を請け負ったものだから、
彼がすっきりするのもよくわかる。



「そういえば、ルックはどこへ?」



いつもなら彼女のそばに浮かんでいる光玉が今はなく、この空間はステンドグラスの光が万華鏡のように輝くだけだ。



「グレッグミンスターまで星見の結果を届けてもらっています」



「……戦争が、起こったり……?」

「いいえ、大統領の息子の行方を聞かれたもので……」

「そんなことに星見の力使って良いんですか」



秘密ですよ、と彼女は笑って水ようかんを口に含む。
他人の家、という緊張感が無くなることはないけれど、親戚の家に厄介になる気持ちってこんな感じなのか、と照らし合わせて納得してみる。



それにしても遅い、とふたりでルックの安否を気遣っていると、うっすらと声が聞こえてくる。
罵声というか、嫌みというか……どうしてそう悪い言葉がぽんぽん出てくるのかと逆に感心してしまう。
でも、誰に対して?



レックナート様とふたりで顔を見あわせていると扉が心持ち乱暴に開いた。



「やっぱり!」

「帰れよ猿一号!」



ルックが罵声を浴びせていたのは……ティルさんだ。
レックナート様ははじかれるように立ち上がり、ティルさんに向かって歩を進める。



「お久しぶりですね、ティル」
「久しぶり。人捜しに星見が使えるくらい平和になって良かったね」



二人の姿を横目に、ぼくはティーカップの追加のために立ち上がった。



「リオウ、君の周り大変なことになってるよ」
「……え?」



うれしそうに笑うティルさんからは、そんなに大変なことが起こっているとは思えなかった。
けれど、続く言葉はやっぱり予想していたもので……



「ナナミとジョウイが、休日ごとにしらみつぶしに探し回ってるよ」
「……やっぱり」



とりあえず、話はお茶を飲みながら、ということになり、ぼくは二客用意する。
ルックは他人の苦労話は聞きたくない、と自室に帰ってしまい、ティーカップは一客無駄になってしまった。



ティルさんはぼくと別れてからルルノイエに滞在していたそうだ。
最期の日、城を見物して出て行こうというとき、血相を変えたナナミと出会った。




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