滑稽な平行世界論理

滑稽な矛盾論-21-


まえもくじつづき





道場の前に、見たことのある後ろ姿があった。
あのときは夜だったけど、今は昼だ、本当に知っている人なのか少し不安になる。
けれどその人物が振り向いて、ぼくの考えが正解だったとわかった。


「ティルさん、でしたよね」
「ああ、君はリオウだったよね、たくさん荷物持ってどうしたの」


ここに来る途中、城下町でめぼしい布や書物、雑貨、たくさんのお菓子を購入してきたため、ぼくの荷物は気付かぬうちに大量になってしまっていたのだ。
愛想笑いでティルさんに返すと、それなりに自由な人さし指を道場へと向けた。


「ここ、ぼくの家です」


そうなのか、とティルさんの表情が明るくなる。


「ゲンカク師範はご在宅ですか」
「え、あ……じいちゃんは、もう……」


なんともいえない表情を彼は察してくれて、ねぎらいの言葉と表情をくれた。


「じいちゃんを知ってるんですか」
「僕というよりは、僕の師匠がね。カイっていう名前なんだけど、聞いたことある?」
「カイ師父……ですか……」


思い出そうと頭をひねっていると、荷物を持ってくれる。
さりげない優しさに感動しながら、ルカもこんなスマートな性格だったらいいのに、なんてよそ事を考えてしまっていた。
カイ師父のことを思い出さなくちゃいけないのに。


「覚えてないなら良いよ」
「すみません、荷物まで持って頂いてるのに」
「ううん。これはあわよくばお茶でもごちそうになろうかなって思ってるからだよ」
「あはは、そうでしたか」


ぼくは喜んで、とティルさんのために扉を開けた。
すると目の前に、かたまったナナミが居た。手にはタマネギ。つるすつもりだったのか、麻ひもも握っていた。


「え? リオウ? なんで?」
「ごめん、いきなり里帰りで。これ、お土産。こちらの方はゲンカクじいちゃんを訪ねに来られたティルさん」


ナナミはあわてて彼から荷物を受けとると椅子を促す。


「ごめんなさい、ゲンカクじいちゃんはもう亡くなってて」
「いえ、おかまいなく。リオウに聞きましたから」
「それじゃ、お茶入れますね!」
「ありがとう」


それじゃぼくは土産のお菓子を一つ……とふくろから揚げ菓子を取り出してテーブルに並べた。
まっ白な揚げまんじゅうはさめてもうまいと近頃流行っているものらしい。


「リオウ、見ないうちになんか変わったね」
「そうですか?」
「痩せた、っていうでもないんだけど、なんか骨盤広がってるよね」
「こ、骨盤!? 骨盤ってなんですか!?」
「骨盤って、ここのこと」


ティルさんはぼくの腰をきゅっとつかんで教えてくれる。それはいいんだけど、
骨盤が広がってるってもしかしてもしかしなくてもアレのせいだっていうのか?
もしそうなら卒倒してしまう。


「だからかなあ、なんか女性的になったよね、かわいい」
「か、かわいいとか、女性的とか、やめてください!」


卒倒しそうになるのをこらえるために声を荒げると、ティルさんは笑って、ナナミはぼくの声にびっくりしながらお茶を並べにくる。


「リオウはどんな仕事してるの?」
「え? ぼくですか?」
「うん、だって、里帰りって言ってたし、たくさんお土産あるからさ」
「リオウはね、皇子様の側近してるんですよ!」


ナナミの言葉に目を見開いてしまう。いやまあ間違ってないけれども。


「へえ、皇子様って、この前駐屯地に来てたでかい人のこと?」
「え、ええ、まあ、そうです……」
「妙に仲良かったもんなあ、謎が解けた気分だよ」
「は、あはは……」


かわいた笑いでごまかして、あとからそこにジョウイも加わって、門の紋章戦争の話を聞いた。
風伝いにしか聞いたことがなかった戦争の話は生々しく人情に満ちていて、ぼくたちはすぐに引き込まれていった。
だけど話にたびたび出てくるウェンディとレックナートの名前に、静かに体を震わせずにはいられなかった。







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