滑稽な平行世界論理

滑稽な矛盾論-19-


まえもくじつづき






その日の朝もベッドサイドに座ってぼくは盛大に溜息をついた。
毎晩毎晩、ながされるままに慣らされていく夜の儀式。


これじゃだめだ、堕落している……慈悲というよりはただの交尾だ、何も生まない、むなしいだけの。


「疲れているのか」


ルカが背中越しに抱きしめてくる。
最初ですら悲鳴を上げて顔を赤くしたけれど、今となってはもう慣れたものだ。
あごの下にある太い腕をぺちぺちと叩いて、離れるように促す。


「だれかさんとちがってね」
「もう慣れただろう」
「だれかさんのせいでね」
「ではなぜ溜息をつく」
「毎晩毎晩じゃ疲れるっつの」


夜もそうだが昼間もそうだ。どこに行くにも付いてこさせられて、暇があれば触られる。
なんだそれはぼくはペットか何かだというのか。皇王もジルさんもそれを良しとするみたいにずっとにこにこだ。


これじゃあ、ルカはぼくに依存したまま、立派な皇様になれないんじゃないだろうか。
惚れた弱みと言おうか、強く拒否できない自分がわかってるだけに、溜息も出るというもの。
それが嬉しいんだからきもちわるい。惚れた弱みとか簡単に頭に浮かぶのなんて最低だ。


少し距離を置いた方がいい。この数ヶ月、キャロに帰ってないし、そろそろ親離れの準備っぽいことしていかないと。
ぼくにもルカにもこの関係は毒でしかない。


恋情も愛情もないじゃれ合いだけの関係は。


「ルカ、ぼく、キャロに帰っていい?」
「だめだ」
「この数ヶ月でホームシックだよ、ナナミのまずい酢豚食べたい」
「まずいものなど食うな。酢豚くらい作らせる」
「そうじゃなくて……里帰りくらいは良いってナナミに言ってたじゃないか、嘘なの?」
「…………」


自分に都合が悪くなると黙り込むのやめて欲しいなあ。
ゆるんだ腕の中から体を解放して、脱ぎ散らかされたシャツを羽織った。


「じゃあ、まず、三日間だけでいいから」
「三日……長くないか」
「移動時間も入れて三日間なんだから、実質一泊しかできないよ」
「わかった、だが、まず、とはなんだ、まず、とは」
「ゆっくり、時間を掛けて里帰りの期間を延ばしていく」
「そんなことをする理由がない」
「あるの。ぼくたちお互いに依存しすぎなの。わかる?」
「わからん」


わかれよ!!
軍議にも政策会議にもこんな子供連れてきやがってっていう周りのお偉方の視線に気づいてないのかお前は!
気がついたら触ってくる癖も使用人たちの間で変な目で見られてるんだ気付けよそれぐらい、軍人でもあるんだろ!
……と一瞬のうちに思っても、開いた口がふさがらなくて言葉に出来なかった。
これだからだめなんだな、ぼくは……


「とにかく、ぼくは息がつまるんだよ」
「毎日忙しいからな、休みを取るか」
「じゃなくて、田舎育ちに高貴な世界は体と心に負担掛けるの! 休みを取るならぼく帰るからね」
「……三日だけか」
「うん、三日だけ」
「わかった」
「本当!?」


なんだかはじめて意思疎通が出来たみたいに感じて嬉しい。
だからかな、笑顔が止まらない。
そうしているとルカがのそりと立ち上がり、またぼくを抱きしめてくる。


「やっぱり」
「男に二言はないよな!」
「……っちっ」


ルカは本当に変わった。
ただそれが良い方向にはまったく思えなかった。……ぼくには。





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