滑稽な平行世界論理
滑稽な概念理論-17-
「おかえりなさい、お兄様、リオウさん」
城に着くと、ジルさんが笑顔でむかえてくれる。
それを複雑な表情で受け止めると、ルカがぼくの肩を抱いた。
今日一日、触れてくる回数が多いような……なんでだ。
「慣れんことをすると疲れる。風呂だ」
「大浴場の方にきがえと一緒に侍女が待機しておりますわ」
「そうか、侍女はいらん。落ちついて入れんからな」
「では、下がるようにおっしゃってください」
「ああ。手数かけたなジル」
「い、いいえ、いいんです。 ゆっくり疲れをとってくださいね」
ジルさんも、笑顔が多い。今日はみんな上機嫌なのかな……食事に何か入ってたりして。
いや、そうしたらぼくも上機嫌になってるはずだ。変なの。
「行くぞ」
「わかってるって。肩つかむな、歩けるから」
「置いていくことになるぞ」
「どーせあんたより足みじかいよ」
ルカが笑う。
振り返ると、ジルさんも嬉しそうにこちらを見送っている。
ブライト皇家がおかしいのか。
「広いおふろだなあー……」
ルカの部屋についていた風呂も大きいとは思ってたけど、ここはまた、街の銭湯より数倍でかい。
湯船に浸かると痛みにきしんだ体がほぐれていく。ずっと我慢していた分、心地良い。
何かが起こる時って、ずっと連続して起きるもんなんだなあ、と体を伸ばしながらひと息つく。
「大丈夫か」
「……朝よりはね」
ってか、なんでまた一緒に入ってるんだろう、それが普通みたいに。
まあ、もういいけど。お互いの体がどんなもんか知っちゃってるわけだし。
「食事はとれそうか」
「とるよ。取らなきゃ治るものも治らない」
「わかった、部屋に運ばせよう」
「あれ? みんなで食べないの?」
「もう夜更けだぞ、食事は皆終えている」
「そっか、なんか時間の感覚おかしくてさ」
溜息をつくと、ルカがぼくの腕を引っぱってくる。
湯の中を滑るように、ぼくの体はルカのひざの上に収まった。
「これはどういうことかねルカ・ブライトくん」
「マッサージしてやろうと思ってな」
「い、いいってば、ちょ、太ももの付け根とかやめろ!」
無骨な手が股の付け根をもみほぐしていく。
力がぬけるそれは、マッサージと言うより、昨夜の前戯に近いものがある。
「……っやめろってば!」
こらえきれず振り切って顔を睨み付け、ルカの頬を両手で引き延ばしてやる。
伸びた顔が面白くて笑ってしまった。
「貴様……」
「やめろって言ってるのに、やめない方が悪い」
ルカは吹きだして、向かい合った体を抱きしめてくる。
それが意味わからなくて混乱させられる。
「なに、して」
「好きにしている」
「また、それ、なの」
お湯のせいで全部どろどろに溶けていくみたいだ。
熱にそのままながされても良いような気さえしてくる。
いや、だめだ。体をよじって抱擁をほどくと風呂からあがる。
「もういいのか」
「いい。腹へったから」
バスタオルで体を包むと、ルカも続いて体を拭きだした。
一日一緒にいた限りでは鍛える時間なんて無いと思うのに、無駄な脂肪のない筋肉の動きが、精悍さを際だたせる。
いつ、トレーニングしてるんだろう……あ、甲冑のせいかな、あれ暑いし重いだろうから。
一人で納得すると用意された上等な絹に袖を通した。