滑稽な平行世界論理

滑稽な対人論-14-


まえもくじつづき




日差しのまぶしさに目がさめると、動いてもいないのに股関節が痛い。
体をひねると腰が痛い……これは、背中にクッションでもおいた方が楽になるのか……?
いや、もう、そんなこと考えなくても良いんだ、しないし。


ワインで酔いつぶれたときは絶叫したけど、今日はもうなんてことはない。
ルカの腕の中にいるのも、案外気持ちのいいもんだ。がっちりとつかまれてなければ。


こいつ、小さい頃ぬいぐるみがないと眠れないタイプだったのかな。
ぼんやり想像してみたら、おもしろくて吹きだしてしまった。


「なにがおもしろいんだ」
「あ……起きてたの? いや、がっちりとつかまれてるから寝るときにぬいぐるみがいるタイプなのかなーと」


「想像して笑ったのか」
「ご明察。起きたいから力ゆるめてよ」


「だめだ」
「訳わかんないんだけど」


「起きたければ自力で這い出してみろ」
「……言ったな、見てろよ……ってイッタイ! あんたの腕の力もそうだけど下半身ヤッバイ! 痛い!」


下から這いずろうと思ったのが悪かったのか、腰から下にかけての痛みが絶頂にさしかかる。
そうするとルカはひとり上掛けをはいで起き上がる。……素っ裸だ。いや、そりゃそうか。


昨日の夜のことが夢か何かのように思えて仕方がないのに、体も、この状況も、夢じゃないと教えてくれるのに。
ふしぎだった。


あんなに怖い思いをしたのもケンカしたのも、なかった事みたいな会話して。


「じきに湯が張る、それまで起きるな」
「あ、おふろ……用意してくれたんだ、ありがとう」


バスローブを羽織る背中をぼんやりと見つめる。


「俺は貴様を選んだ」
「え? なに、いきなり」


「わかってないみたいだからな」


ルカが体を抱き上げてくれて、そのまま風呂の中に体を入れてくれる。
じんわりと温まってくると体中の痛みも和らいでいく。


「……やさしいのがきもちわるい」
「乱暴なのが好きなのか」


「いえ、やさしい方がいいです」


ルカが、笑った。


「おい、顔赤いぞ」
「うっさい、のぼせたんだよ」


「入って五分も経ってないが」
「のぼせたんだ!」


湯船のお湯をひっかけてやると、ルカも湯に体を突っ込んできた。
中の液体はいきおいよく外へ流れ出し、浴槽が狭くなる。


「あーお湯無くなった」
「のぼせてたんだから丁度いいだろう」


日の光を浴びながらのおふろは、湯気がいつもより白くて、光の筋が走ってるのがわかって、きれいだ。
妙な感激を覚えているところに、ルカのゆびさきが頬をすべってくる。


「……なにしてんの」
「好きにしている」


「あ、そ」


ルカがいつにもなくやさしい気がするのはなぜだろう、顔なんか、見たこともないくらいゆるんでる。
自信が持てたのならいいな。体を張った甲斐があるってもんだ。


あとは、すてきなお嫁さん探し……か。
そうしたらルカの王道をしっかりと見届けて……それから……紋章のこととか、考えよう……
あ、家に帰ったらナナミたちに怒られるかな……無断外泊だもんなあ……


「お前の家には使者を送っているから気にするな」
「え?」


「だから心配するな」
「あー……考えてること、よくわかったな」


「顔を見ればわかる」
「はいはい、そーですか」


それからぼくたちは何食わぬ顔で入浴を終えて、バスローブを羽織る。
破れた服を抗議すると、簡単なシャツと下履きを用意された。


皇王とお姫様に食事に招かれてまた何事もなかったように食べ物を口に運ぶ。
体の痛みを気取られないように振る舞うことで精一杯で。
味はするのかしないのか、わからなかった。


ルカもまた、普通に食事をしている。
皇王ともぽつりぽつりと会話をし、ジルさんとも会話していた。
ジルさんは何を見ていたんだろう。
ぼくがいなくても、家族仲は良好になってるじゃないか。


招待されたおかげで昨夜は大変だったっていうのに。
自分のきもちわるいルカへの気持ちの二文字も、気づかなくて済んだのに。


でも、ふしぎと後悔はしていなかった。


ぼくらのセックスがしてよかったことなのか、わるかったのか、今はまだわからないけれど、
確実に小さなしこりが、心の中に出来たことはわかった。




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