滑稽な平行世界論理

滑稽な対人論-12-


まえもくじつづき



周りの状況を把握する前に服が引き裂かれる、レックナート様からもらった、きれいなローブが、縦と横の糸になりながら破けていく。


「何、すんだ馬鹿!!」


殴ろうとした腕が止められる。
真っ暗の中で眼光だけがわかる。
……やばい、天山の峠で見たあの目と、威圧感だ。
そうだ、これが本来のルカの姿なのに、どうして忘れていた?


「……お前だって女との経験もないくせに何を言う……?」
「そ、りゃあ、こんな体じゃ、何もできないだろ……!」


「そうだな、女と変わらん、骨も、肉も、お前は、処女と同じだ」
「ひ……っ」


大きな手のひらが腹を撫でてくる。指紋のざらざらが、吸い付いて来るみたいに。
恐怖で胃がけいれんする。


「俺が処女とセックスできないかどうか、試してやろうか」


しょじょ、それは、ぼくのことか。


「ぼくは、男だ、女でなければ、処女でもない……!」


歯をかみしめて唱えるようにつぶやけば、ルカの口がゆがみ、歯が光る。


「俺にとっては女だ」
「やめっ……」


体をやみくもに動かして脱出口をはかる。
それをなんなくすべて受け止められて、こいつは真っ暗闇でも何か見えるのかと薄ら寒くなる。


「リオウ、お前が挑発したんだぞ」


低い声に喉がつまる。
……お前に、わかるか? ぼくの気持ちが。


ルカに必要とされて嬉しかった自分がきもちわるくて、自分がただの逃げ道だったってわかって悲しくなった自分がきもちわるくて。


……でも、それでお前のことも考えずに暴言を吐いた自分だって悪いのは、わかってる。


「わかってる」
「……なにをだ」


「じぶんの気持ちが……」


ルカの動きが止まる。ぼくの言葉を待っているのか。


「好きにしろよ。お前が、処女とセックスできるんだってぼくが証明してやる」
「……貴様」


「お前が、ぼくを逃げ道に選んだこと、全部許してやる」
「ちがう」


「何がちがうんだ。そうじゃなきゃこんなの、狂ってる」


ルカが耳をかんでくる。ゆるゆると歯をこすりつけられて、肩がふるえる。


「俺はもとより狂っている」


ぼくだって、狂ってる……ルカが……「  」だ。
アンバランスで勇猛で、無意味やたらと人を惹きつける分厚い威圧感とちらりとのぞく蠱惑的な優しさが。


誰よりも王にふさわしいと思う。君臨した姿を、軌跡を見続けたいと思う。
だからこそ、ぼくじゃだめだ。


未来に続くのはぼくの体じゃない、どこかのやさしい、ルカにぴったりあったお姫様の体だ。


だから、ぼくは……
ルカの、皇座でふんぞり返った姿が見たいから……


お前の未来を、切に願う。






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