滑稽な平行世界論理
滑稽な対人論-10-
冷えのぼせかしら、とジルさんが濡れタオルを持ってくると言う。
そんな申し出は必要ないと口を開いたら、また扉が開いた。
こんな状態で会いたくないのに、いや、どんな状態でも会いたくない、はずなんだけど。
「お兄様!」
「どうしたジル、何をあわてている」
「リオウさんの体調がすぐれないらしくて」
「フン……酒でも飲み過ぎたんだろう」
酒なんか飲みたくても飲めるわけがないだろう!
ルカの言葉にかちんときて思わず声が出る。
「飲めるか馬鹿!」
「馬鹿とはなんだ馬鹿とは……ああ、そうだったな」
ルカはジルさんに後は任せろと告げると僕の方へ歩いてくる。
いやだ、来ないで欲しい。きもちわるいまんまなのに、来ないで欲しい。
「飲みたいのに飲めなくて禁断症状が出たか」
「な、なんだよ禁断症状って。アル中になるまで飲んだ覚えなんてないよ」
顔が見たくなくて、うつむいたまま軽口をたたく。
気持ちを察してくれ、と願う前に不躾な手のひらが顔を持ち上げさせていく。
「や、やめろ、さわんな、見るな」
「顔が赤いな」
「そ、そうだよ、風邪だったらどうするんだ、うつるだろ、やめろよ、触るな、離れろ」
あごをつかんでいた手のひらが離れてほっとしたのもつかの間、体がふわっともちあがる。
めまいでもしたのかと思ったらちがう、また抱き上げられている。
「お前は人の話を聞けないのか! 触るなってば!」
「何を躍起になっている。さっきのことを気に病んで体調を崩したんじゃないのか」
「さっきのことって……」
「見合いのぶちこわし」
「それもあるし今の状況のこともあるしあんたのこともあるし自分のこともあるし全部全部気に病んでるよ!」
「うるさい、わめくな」
「下ろせ! 歩けるから!」
「聞こえん」