滑稽な平行世界論理

滑稽な未来予想図-07-


まえもくじつづき




あいつはどのあたりで気がつくだろうか。
真っ正面から近づいているのに、こちらを見ようともせず、せわしなく指を動かしている。
真っ正面に立ってやったところで、来賓客がこちらに気づき、息を潜めるのが肌でわかった。
ルカの指の動きが止まる。


「遅い」


開口一番がそれか。
こいつはどんなときでも怒りのボーダーラインに足を突っ込んでくる。


「遅いって、どういうことだよ」
「入ってきたら一番最初は主賓に挨拶するものだろう。なのに貴様は何だ、俺より先にキバ将軍に挨拶か」


おお、クラウスのお父さんは将軍だったのか、それはすごい人を父親に持ったなあ、じゃなくて、
しょっぱなから気づかれていたのかとなんだか気が抜けてしまう。ある意味真っ向から行って正解だったな。


「なんだよ、気づいていたなら声をかけてくれたらいいのに」
「俺からか? 貴様、自分の身分をなんだと思っている」
「自分の身分? あんたより大人って身分かな」
「ふん、負け惜しみを」
「っていうかさあ、ルカがそんなんだからお姫様たちも話しにくいんだよ」
「女どもは俺じゃなく、国を見ているからな、機嫌を伺うのは国王だけでよいのだろう?」
「あ、じゃあ、女の子から話しかけてくれたらいいってことか」
「ちがう」
「じゃあなんなの、そろそろあんたも腰を落ち着けていかないと、皇族って継承とかいろいろ大変なんだろ?」
「そんなもの、ジルが継げばいい」
「あー……そういう考えだから皇女様はぼくに手紙を寄越したわけだ。それをあんたは知ってて黙認した。なんで?」
「知らん」
「知らないってさあ、自分の心のことだろ。ぼくにして欲しかったことがあるからだろ、正直に言えばいいのにさ」


ルカの肩がぴくりと動いた。案外図星だったようだ。
ひっかけただけなんだけど、この男が何を求めているのか。
……やっぱ、後押しだよなあ、一回断って踏ん切りがつかなくなっただけじゃないの、お見合い。
ただ単純に。
ああもうそれにしても周りの視線が痛いな。皇子とお話しできるあの子供は何者だ、ってところか。うるさい、同年代だよ。言わないけど。
気を取り直そう、ぼくも星見の魔術師の甥だ。多分。何か予測できるはず。


そうだ、星見の結果をもらっていた。これはそういうことなんだ。
お友達に読め、ということは、ルカ・ブライトの未来を読んだ結果なんだ。


「仕方がないなあ」


ぼくは袂から星見の結果を取り出した。


「なんだそれは」
「あんたの星見の結果だよ」
「貴様、よもや自分は予言者だと吐くつもりか?」
「どうぞ、好きなように解釈してかまわないよ。ぼくのなんたるかを知るのはルカだけだからね」


リボンをほどきながらのぼくの言葉に、ルカは押し黙った。
紙を広げると、それが発動条件だったのか、ローブに込められた魔力が放出を始める。
パーティー会場を星屑あふれる夜闇へと姿を変えさせ、ぼくの体はその空間に浮き上がった。
ぼくの口からぼくの言葉ではない声が奏でられていく。
これはレックナートの声だ。ぼくの体を媒体にして、予言を繰り出すというのか。
ルカの目は見開き、ぼくから視線を動かさない。どんな心境なのか、読み取ることは出来なかった。
周りの人々も、一体何が起こるのかと固唾をのんで見守っている。


「ハイランドの皇子……すすむ道はふたつにひとつ」


「永久なる繁栄の道か」


「永き栄光の道か」


「あなたの運命は、すべてあなたの手の中に」


予言が唱え終わると、羊皮紙は青白い炎に焼かれ、空間は華やかなものへと戻っていった。
そしてぼくもゆっくりと地面に降り立ち、レックナートと一体化したときの妙な高揚感を落ち着けることに必死になった。


「リオウ、貴様は星見の魔術師なんだな?」
「……え?」


いや、ちがう、ぼくはただ同じ一族なだけ、そう答えようとする前に自分の倍以上ある男に抱き上げられていた。


「国にひとり手に入れることができればその繁栄を約束するという星見の魔術師、強大な国の姫も、富にあふれた国の姫も、こいつ以上の価値はない!」


「何を選んでも国の姿は悪くならないというのなら、俺はリオウ、お前を選ぶ」


いや、ちょっと、待てよ。選ぶ以前にぼくはお前の伴侶にはなれないし、お前の方が先に死ぬし。
抗議しようとする口を手でふさがれ、低い声で黙れとささやかれる。
こいつ、婚約者選びを根本からぶっ潰す気だ!
ぼくはルカにそろそろ腰を落ち着かせたらどうだと諭しに来たはずなのに、逆に利用されているとはこれいかに。何とも情けない……


会場から抗議の声が上がることを期待しても、まばらな拍手があがるだけだ。
さわらぬ神にたたりなし、そういうことだろうか。


腕の中から見上げるルカ・ブライトの表情は戦策の成ったときに浮かび上がるような、黒い笑みをこぼしていた。


こいつあとでぜったい一発殴らせてもらう。




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