滑稽な平行世界論理

滑稽な未来予想図-06-


まえもくじつづき




「この扉の先で、立食をしながらのパーティーが行われているんですよ」
「まあ、見ればわかるし音も聞こえる。立派な催しなんだね」


真白い巨大なドアには天使の彫刻が施され、両脇にはこの日のために育てられたような大輪のバラが花瓶に生けられている。
一定の音量に保たれたざわめき。楽しそうではあるが、妙な威圧感があり、入りにくい。


「さ、どうぞ。きっと奥の玉座でふてくされているでしょう」
「んじゃ、こっそりと」

クラウスの背に隠れるように入室する。
貴族の世界に慣れない人間からすれば目にいたい光景が広がった。
あふれるばかりの光をたたえたシャンデリアが、天井の空間を埋め尽くし、そこにしたためられた天使の絵画が光を反射し、羽ばたきを本物のように見せている。
壁には隙間がないように様々な花が生けられ、清潔なクロスを敷かれた円卓が赤い絨毯の上に広がり、見たこともない料理が円卓ごとに色を変え、鮮やかに盛りつけられていた。
なのに、奥に用意された皇族の玉座で、神経質そうに肘置きで人差し指を鳴らしている、このイベントの主役。
滑稽で吹き出しそうになる。


「さ、リオウ殿、ご挨拶を」
「え〜……やっぱりいかなくちゃだめ? なんか苦手なんだよなあ、位の高い人ばかりだし」
「今のあなたの服装も、私から見れば立派な貴族のようですよ」
「あ……これ、そうか……」


レックナートも、この展開を予測していたのか。まあ、そうだよな、星見で、未来を読むのが仕事なんだから。


「その格好はどうされたんですか?」
「うん、叔母が皇子に会いに行くなら着ていけって、用意してくれたものなんだ」


間違ってはいないし、クラウスも納得してくれたようなのでいいだろう。
ぺらぺらと嘘の出る自分の口がいやになるけれど。


「クラウス、人酔いは治ったのか」
「父上」


屈強な初老の男性が、酒のせいだと思われる頬の赤さと陽気さでクラウスに近づいてくる。
クラウスの表情は明るく、親子間はうまくいっているようだ。なんといいことだろう。思わず笑顔になってしまう。


「……こちらの方は?」
「はい、父上、リオウ殿ですよ、仕事熱心で良い少年だと、以前お話ししたでしょう」
「おお、君がリオウか。クラウスは友人が少ないから、仲良くしてやってくれ」
「父上!」
「そんな、彼には親切にしていただいて、仲良くしてもらいたいのはこちらですよ」
「リオウ殿……」


父親を横にするとクラウスの表情が青くなったり赤くなったりでおもしろい。
親子で気性が違うようだから、仲が良いのかもしれないな。


「君も招待を受けたのか?」
「彼は皇子に真剣に見合いするよう、言い聞かせに来たんですよ」
「ほう、あの皇子に? 偉く肝の据わった少年だな」
「ええ、だって彼はあの皇子に……」


だめだ、この流れは『皇子に殴りかかった』という人生の中で一番の汚点をさらけ出される展開だ。


「ぼくは皇子の友人ですからね! 幸せを願うためにも、だれかが言ってやらないと!」


言葉を滑り込ませ、何とか汚点をさらすことは回避できた。いやしかし、友人という言葉を使ったことで、またなにか泥沼にはまっていくような気がするが気にしないことにする。
これ以上話をふくらまされても厄介だ。早々に親子に別れを告げると、ルカの元へ向かうことにした。




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