滑稽な平行世界論理

滑稽な未来予想図-02-


まえもくじつづき



天へと到達していそうなほどの、高く、細く、光を乱反射する表面を持った塔の目の前に
気がつけば立っていた。
周りは木々が生い茂り、人目につかない場所であるということがよくわかる。
生き物さえも息を潜めているような静けさがそこにあったからだ。


「魔術師の塔……って」
「聞いたことない? トラン共和国おかかえの星見の住むところ」
「赤月帝国がその予言を信じ、請うたという星見の予言……トランもその存在を利用しているのか」
「諸外国の動向をうかがうときにね、参考にするみたいだよ、あそこの大統領は」
「へえ、なんでもかんでもってわけじゃないんだ」
「説明はあんまり必要ないみたいだね、じゃ、入って」
「いやいやいや、ちょっと待って。どうしてここにぼくを連れてきたんだ、肝心な説明がされてないじゃないか、えーと……」
「……ルック」
「ルック、説明してもらえるかな」
「レックナート様が、連れてこいと言ったから」
「そのひとが、星見の魔術師ってことだね?」
「ずいぶんと頭の回る。まあ、それなりの年齢なんだし、普通か」


鼓動がはねた。この少年はぼくの秘密を、完全ではないとしても知っている。
さらに問いただそうとするぼくからきびすを返すと、ルックは先に塔の中へ入ってしまった。
なんのためにその星見の予言者がぼくを呼んだのかはわからないが、
悩んでいても仕方がない、来てしまったものはしようがない。
覚悟を決めて軽く拳を握ると、息をつく。
重く見える、なのに軽い感覚を覚える扉を開いて、後に続いた。


先に待っていたルックに待つよう促されたそこは、どこから入ってくるのか、太陽光に照らされたステンドグラスが次々と姿を変える、色鮮やかな空間だった。
水琴が遠く響く、狭いような、広い場所。


「お待ちしておりました、リオウ」


柔らかな絹のような声が響くと同時にステンドグラスの明かりは薄くなり、代わりに無数の光玉がフロアに広がる。
それと同時にソファやテーブルなどの家具が姿を現した。
どういった仕掛けなのか、目を白黒させているとソファに腰掛けるよう進められ、おそるおそるビロードのなめらかなそれに体を沈める。
腰を落ち着けると目の前のローテーブルにお茶のセットが現れ、その先の一人がけのソファにようやっと声の主が現れた。


「あなたが、レックナート、様」


いつの間にやら渇いたのどからはかすれたような声しか出ない。
それに気がついてか、くすりとレックナートはほほえむと、お茶を勧めてくる。
さわやかなシソの葉を煮出した、初めて飲む味だった。


「単刀直入に言いましょう、リオウ、始まりの紋章を継承してください」


単刀直入すぎて、何のことだかわからない。きつい芳香のお茶に眉を寄せるかたちで、言葉の続きを待つ。


「あなたが唯人(ただびと)として生きていくことは難しいからです」


紋章を継承すれば、不老になる。それは生まれ持つこの体質を隠すにはちょうど良い隠れ蓑だ。
だがしかし、真の紋章には不幸がつきまとう。ぼくだけじゃない。その周りにも与える悪影響を考えなければならない。


「継承は、しません。大切な人を傷つけてしまうかもしれない。なによりも、ぼくは両親からもらった血肉を否定したくないんです」


「弟と、真逆のことを言うのね……」


弟、その言葉の意味するところは。


「あなたは……門の一族の生き残りなんですか」


うなずく姿に、ぼくは何故か気が遠くなりそうだった。




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