泣く場所を得るために

悲劇


まえもくじつづき




「リオウ! どこに行っていたんだ!」
 
心配する親友の体はオレンジに輝き、赤い緋色の花が熱を持ち駐屯地に咲き乱れていた。
音を立ててテントの固い布が炎に浸食されていく。
ジョウイは離すまいと言わんばかりにリオウのまっさらな腕をつかんだ。
手のひらから腕の関節まで黒くしたジョウイは、それだけで必死に自分を探していたのだとリオウは申し訳なく思った。
 
「一体、何があったの」
「ラウド隊長が言うには、敵襲だ。休戦協定が破られたって。隊長の指示で東の森にみんな逃げたけど、何人かは斬られて戻ってきて、そして死んだ」
 
リオウはこの状況を何か知っているような感覚にとらわれる。
休戦協定が破られたという今の状況への理由が、まるで薄っぺらい何かのように感じるのだ。
リオウが押し黙り唇をかんでいるのを見ながら、ジョウイは声を掛ける。
 
「でもよかった。リオウが無事で。すごく心配したんだからね……」
 
そうして手を伸ばしてくる親友の手が、リオウの頬に触れる前に止まった。
 
「ジョウイ? どうしたの」
「ううん、汚しちゃう、と思って」
 
この状況で汚れを気にすることが出来る親友の手のひらをかまわず握る。
薄くて固くて冷たい右の手のひらは、小さな頃からリオウが触れる特別な場所だった。
 
「東の森は伏兵が居るって事だよね」
「うん、だから生き残るなら、このまま峠を登っていくしかない」
 
お互いに声を出すまでもなく指示とは別の方向へと足を速める。
親友は自分を心配してくれる大切な家族だとリオウは認識している。
ナナミという義姉もそうだ。彼女も同じように思ってくれていることだろう。
だからリオウはなんとしても生き延びてやりたいと思った。
一人はとても悲しいものだから。



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