滑稽な平行世界論理

滑稽な日常論-13-


まえもくじつぎ




毒味係を外すことに抵抗のあった皇王を何とか説き伏せ、食事の準備が出来た。
ルカを無理矢理引っ張り出し、食堂に全員をそろわせる。
一品ずつ出すと自分の食事時間が無くなるので、一気に出すことにして、配膳も全て一人で行った。
トマト味噌汁にサラダ、そしてカレーライス。デザートのアイスは食事が終わってからなので待機させておく。
お互いの距離を狭くして用意したあまりにも庶民的なラインナップに、三人とも声が出ないらしい。
そこに活を入れるように手を合わせて! と声を張り上げる。


「おあがりなさい! いただきます!」


ぼくの挨拶に失笑を隠せないらしい。クスクスとこそばゆくなるような笑い声で、この日の夕食が始まった。
味噌汁を飲んだジルさんは不思議なスープだと喜び、大豆で作っているので美容にも良いことを話すとなおさら喜んだ。
皇王ははじめは戸惑っていたものの、このようなかたちのカレーを食べたことがないと言い、ご飯と絡めて食べるおいしさに笑う。
ここに来て初めて会話のある食事風景だと思ってルカを気遣うように顔を向ける。
視界にいた彼の目からひとしずくぽろりと落ちた。


「え!? なに、もしかして辛かったりする!?」
「黙れ」


カレーライスを口に運びながら涙を流すルカ・ブライトに突っ込みを入れるのはやめ、ジルさんと皇王の会話に花を咲かせるように努めた。
アイスクリームだけは失敗で、卵と砂糖がうまく混じり合っていない部分があり、そこでまた笑いが起きる。
お茶を飲んで一息ついた頃には、全員の心が近づいたような気さえ起こる暖かさを含んでいた。


「リオウさんて、お料理がお上手なのね」
「レパートリーは少ないし、簡単なものだけですけれど」
「それでもすごいわ。私もいろいろ覚えたい」
「あんなにうまいものは初めて食べました。カレーライスは毎日食べても飽きなさそうですな」
「お父様ったら、おひげに付いてることを気づかずに食べちゃうくらいですものね」


ルカ・ブライトはぼくたちの話を聞きながら、どこか遠くを見つめていた。
それでも良いと思った。何か感じてくれたことがあれば、それで。


いつもより長い団らんの後で、おのおのが退室していく中、ルカだけはずっとそこにたたずんでいた。
それに寄り添うように隣でお茶をすすっていると、ぽつりと音が響く。


「なんだ、あの食事は」
「気に入らなかったら、謝るよ」


三杯もおかわりしたくせに、とは言わないで素直に謝っておく。
ルカの方を見ようとは思わなかった。何かをこらえる息が響いてきたから。


「あんな風景を俺は知らない。あんな空気を俺は知らない。あんな妹を、あんな親父を」


多分、きっと、いろいろな固定観念が崩れているのだろう。それが求めていたもので、それでも簡単に受け入れられなくて。うれしくて苦しいんだろうと思う。


「ゆっくりでいいよ」


そうつぶやいて、後は無言の時間を過ごした。


それから何度か自分主催の食事会を開いたけれど、レパートリーが少ないのは先に述べたとおりだ。料理内容が重なってしまって申し訳なく思う場面が多かったが、それでもみんな、食事と言うよりは雰囲気を楽しむために心待ちにしてくれたのだと思う。
料理のスパイスは幸福のスパイス。おいしくなるのは笑顔のスパイス。
少年歩兵隊での食事当番の時、こうやって歌いながら料理する少年が居た。何となく思い出してしまったのは、全く持ってその通りだと感じたからだろう。


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