滑稽な平行世界論理
滑稽な日常論-11-
「まあ、アンタがその様子なら、大丈夫かな」
いすから立ち上がり伸びをすると、何がだ、と返ってくる。
「休戦協定のこと。もう母親の顔に泥を塗ろうとは思わないだろ、手と手を取り合って、平和な世の中にしてくれるだろ」
「どうかな」
フンと鼻を鳴らす仕草に、素直じゃないなあ、と口の端をあげる。
「だってルカは優しいからね、お母さんそっくりで」
その言葉を出すとぐうの音も出ないらしく、ただ眉を寄せてこちらを見つめるだけだ。
お母さんのスペルは、彼にとって重大な魔法のようだ。
「それじゃ、ぼくは帰ろうかな」
「帰るって、その顔でか」
「え、だめ?」
「その顔じゃ誰が誰かわからんぞ」
「そうかなあ……」
「そうだ」
「でも、ここでやっかいになるとしても、することがないと落ち着かないしね、傷が治るまでぶらぶらしようかなあ」
「魔物の噂でも流す気か」
「うっわ、ひどい、そこまで不細工なの、この顔」
「そうだ、治るまで文官の仕事を手伝え。市民の管理文書の整理が間に合わんと聞いている。給与も出そう、三食部屋付きでどうだ」
ルカはこんなに食い下がってくる人間だっただろうか。
もしかしたら父親に何か言われたのかもしれない。近衛兵の伝令は素早いとも聞くし。
ここはルカの顔を立ててあげるのが一番良い選択かもしれない。
「うーん、そうだなあ、給与が出るって言うのは普通にうれしいかも」
「ならばその手はずを整えよう」
こうしてぼくは顔の傷が癒えるまで、ルルノイエで書類整理をして暮らすことになったのだった。