滑稽な平行世界論理

滑稽な和解論-10-


まえもくじつぎ




血の混じった消毒液がしたたり落ちるのをぬぐいながら、真っ正面でふんぞり返る男をじと目で見つめる。


「共同演習なんて方便、誰が考えたのさ」
「俺と向こう側のリーダーだ」
「そう、よかった。とりあえずは協定を守っていることになるね。でも死者が出ただろう」
「あいにくだが怪我人のみだ」
「そうか、安心した」
「お前は、俺が無茶をしようとすると出てくるな」
「無茶って言っても、間違えていなければ放っておくよ」
「今回は何故だ」
「休戦協定を破るんじゃないかって警戒してた。峠の一件から音沙汰無かったしね」
「お前を反逆者として取り立てることも考えたが、先を読まれているかもしれん、そう考えてやめた」
「答えは出てたんでしょ、堂々と来たら良かったのに」


不満を述べると、また消毒液をかけられ、息が止まる痛さをこらえた。


「お前は何者だ」
「何者って……」
「答えが出たら教えるんだろう」


ぼくはありきたりな真実を述べるしかなかった。
母親同士が親友だと言うこと。
親友のように、兄弟のように思いなさいと言われたこと。


「年齢差がかみ合わん」
「あ、やっぱりそこに行き着くよね」


父親は今は無き門の紋章の一族。しかし当の本人は一族を捨て旅人になっていた。
そこで母と出会い夫婦となるのだが、裏切り者だと父親は殺された。
残った母親はぼくを連れ逃げ延びるが、流行病でなくなり、孤児となった自分をゲンカクが見つけ、引き取った。
これだけならばどこにでもある話だ。自分の体の異質を述べるには門の紋章の一族が外見年齢と内面年齢に著しい差があるという部分を説明しなければならない。
簡単に言えば個人差はあるが実際年齢よりも体の成長が遅いという点に限る。


「お前は実際年齢はいくつだというのだ」
「……アンタと同い年」


ルカ・ブライトは勢いよく吹き出した。


「その歳で少年歩兵隊に居たというのか! それは計画が破綻するのも無理はない!」
「しようがないよ。見た目が十代なんだ、孤児だし、年齢不詳で大丈夫かなって」


笑いが止まらないらしいルカをおいて、自分で勝手にガーゼを頬に当て、テープで留める。
後で気づいた軟膏を塗りおえたところで笑い声が落ち着いてきたのでこちらも考えていることを聞くことにする。


「あんたは自分がいやなのか」


あがっていた口の端が真一文字に引き締められる。こちらへ向けられる視線はまっすぐにぼくを射貫く。


「決まっている」
「でも、ぼくはうれしかったよ、ルカが生まれて。ぼくの母さんもそうだし、みんなそうだ」
「俺のせいで母は死んだのだ。休戦協定など結ばなければ。俺は俺を許せない」
「アンタが許さなくても、ぼくは許すよ」


誰のせいでもない。みんな、誰かのためにって思って行動した結果だ。
根本を見れば悪いことをしようとした人なんて一人もいないとぼくは思う。


「不細工な顔で何を言うか」
「ルカが悪いことをしようとしたら何度でも殴って怒りにくるよ」
「…………」
「んで、許す」
「阿呆が」
「友達居ないの? それが人間づきあいってもんなんだよ」
「殴るのが怒るより先というのはいささかおかしいだろう」
「え、そっち?」


あ、ごめん、と笑うと乱暴者がと返る。どっちがだよ、と負けじと返せば、笑い声で返してくる。
久々に同じ年齢の人間と話したことで、自分の中の気疲れも消えるようだった。


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