滑稽な平行世界論理

滑稽な和解論-09-


まえもくじつぎ




兵士に揺り起こされ、ぼくは目を覚ました。
格子扉は警戒心無く開けっぴろげだ。彼を人質にとって逃げ出すか?


「釈放だ」


不穏な考えはその一言で払拭された。
ぼくは信じられないという目で兵士を見つめる。相手もどうしてそうなったのかはわからないらしく、恩赦が出た、ということだけ教えてくれた。
とりあえずは自由の身だ。城から出たらまた接触できる機会をうかがおう。
そんなことを考えていると、腕をとられ歩かせられる。
何も思わずについていくと、両端に兵士の置かれた扉の前に立たせられる。端に装飾の施された扉は、豪華絢爛という言葉がまっすぐに当てはまる。


「入れ、皇王がお待ちだ」
「ええ!?」


皇王と言うことはルカの父親だ。息子が殴られたら親は怒るものだろう。参ったな、と思いながら小さく空けられた隙間からこっそりと中に入った。


「あの、息子さんを殴ってしまってごめんなさい」


言及されるよりも先に、と口に出すと、皇王の引き閉められた口がゆがみ、後には笑い声が続いた。


「リオウとおっしゃったな、なに、怒ってはいません」


ならばなぜ自分をここに? その問いは、母親についてのことだった。
ルカの母親についてよく知っていたのが気に掛かったと言う。
ぼくの母と皇王妃が友人だったと言うことを話すと、皇王も話を聞いていたのか、すんなりと理解してくれた。


「しかし、彼女の子供もまたルカと同じ年齢だと聞いていたが……?」


そこからが、ぼくの体のからくりだ。ごまかす必要もないので自分の知っている限りのことを話すと、納得したようにうなずいてくれる。


「そうでしたか。道理で天山の騒動の理由もわかりました。まさか、一族の生き残りがいるとは」
「半分だけ、ですが」


天山の峠の一件は皇王にも伝わっていたらしい。報告書にもこまめに目を通しているということだ。


「どうぞ怪我の治療をさせてください。元はといえば不肖の息子のせいだ」
「いえ、兄弟げんかのようなものですから。気を遣われては恐縮してしまいます」
「では、妻の友人の息子だ。好きなだけ滞在するように」


歓迎の意を述べられて、ぼくは礼をする。王はそのままそばにいる近衛兵に伝令を出すと、こちらにも退室を促した。それに快く応じて部屋を後にする。扉を背にため息をつく。
自分の出生を話した後、明らかに対応が変わった。ぼくには星を見る力も、見守る力もない。ただ体質のみが、一族のそれだと言うのみだ。


長居は無用、さっさとルカ・ブライトと話をして帰ろう。


「リオウさん」


呼ばれた方向へ振り向くと、ジルさんが侍女を従えてこちらへ向かってきていた。

「釈放、おめでとうございます」
「ありがとうございます……もしかして、ジルさんが恩赦を?」


問いかけに笑顔で返す。その姿は肯定と否定、どちらにもとれるもので首をかしげるほかない。


「署名で言うならば、ひとりだけ、名前を書いてくださった方がいます」
「え? ひとりだけ?」


署名が集まったことで言えばうれしいことだ。ただそれが一人だけだというのは、なんだか少し寂しい。でも、その一人だけの署名で恩赦が受けられるとなると、その名前が持つ絶対的な力を考えろ、ということになる。


「お兄様」


目線を高く、ジルさんがぼくの後ろをめがけて声をかける。振り返ると同じように顔を腫らした男が金属のこすれる音を響かせてこちらへ向かってくるのが見えた。


「ひどい顔だな」
「お前がやったんだろ」


憎々しげに言葉を吐くのでそれに同じように応じる。ジルさんはぼくたちの対応にはらはらしている。


「くやしい。ぼくより顔の傷が軽い」
「俺の数発で見る目も当てられない顔だ」
「当然。体格差を考えろ、体格差を」


フン、と鼻を鳴らした後お互いに笑い出す。


「男らしい顔つきになったじゃないか」
「ぬかせ、不細工な顔が余計に不細工になったんだぞ、責任とれよな」


軽い言い合いだと気づいたジルさんも一緒に笑い出した。それに気がついたぼくたちは、何ともばつが悪くなってお互いに顔をそらす。


「……こい、治療してやる」
「いいよ、別に、放っとけば治るから」


ぼくの言葉を無視してルカ・ブライトは腕をつかんで引っ張り出す。


「放せ、いいっていうのは、遠慮するってことで!」


ぼくの抗議もよそに体格差を生かして無理矢理医療室へと連れて行かれるのだった。
顔に思いっきり消毒液をかけられて、絶叫するのはすぐ後だ。


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