滑稽な平行世界論理

滑稽な和解論-07-


まえもくじつぎ



軍事演習も最終日となる七日目、ようやっとにらむべき相手の動きが見えた。
ざわつく兵士たちをよそに馬を借りると、平原へ向かう。


馬の背に立ち前方を伺うと、見まごう事なき王国軍がトトの後ろへと回りこむが見えた。
村にはすでにビクトールさんの一軍が紛れ込んでいる。大事にはならないはずだ。
ちりじりに村人たちが脱出してくるのが見える。それを確認すると馬にまたがり直し村へ向かって走り出す。
ルカ・ブライトは皇子らしく高みの見物を決めているに違いない。
しかし簡単に占拠できないことにいらだち、前線へ降りてくるだろう。
自分の予想が外れていないことを祈りながら手綱を強くふるった。
ナナミとジョウイに駐屯地にいない自分を心配しないでほしいと思いながら。


戦いは村の中に収まることはなく、外の平原にまで溢れ出していく。
馬を駆る兵士たちが槍を持って応戦している。
駐屯地から追いついた歩兵もそこに加わり、そこは紛れもなく戦場だった。
ルカ・ブライトへの怒りがわき起こっていく。
どうして休戦条約を結ぼうと思ったのか、それを突き詰めればこんな馬鹿なことをしようとは思わないはずだ。むしろ大切に守っていこうと考えるんじゃないのか。
君が生まれるから、平和な世界にしておきたいと考えてくれた、お父さんとお母さんのことを思うのならば。


真白いルカの甲冑は遠目からでもよく目立つ。目標を見定めると馬の腹を蹴り、加速に紛れて手綱を長く持つと馬上にたちあがる。
このままルカ・ブライトに突っ込むのだ。


数人の味方兵士に囲まれたルカ・ブライト自身は戦を見つめ、見極めている。その横から自分が近づいてきているなんて想像もしないだろう。案の定、すぐそばに近づいてやっとこちらに気づいたのだから。


「ルカ・ブライトおおおお!」


馬から飛び上がり、槍を飛び越えてつかみかかる。
馬上のルカは体勢を崩しながらも馬から落ちることを拒み、整える。
その顔を思いっきり殴りつける。


「また貴様か!」


痛みにゆがむルカにかまうことなく何発も殴りつける。
向かってくる兵士の槍は脇に挟み振り回した。手に入れた獲物は刃先をかばい兵士を殴るにとどめる。気づけばルカと自分だけの滑稽な一騎打ちだ。


「お前は! 休戦協定が結ばれた本当の理由にたどり着いたのか!」


首根っこをつかんで乱暴に振り回す。剣に伸ばされる腕を蹴り込み、その間に武器を捨てる。
ルカ・ブライトは怒りのままににらみ続けながら、怒鳴り返してくる。


「俺の生まれ年に協定を結んだからこそ、母は辛い目にあったのだ! はじめから、無ければ良かったのだ!」


彼はちゃんと気づいていた。だけどそれで起きたお母さんの不幸を、自分のせいにするのか。


「だからって。戦争を繰り返す馬鹿がいるか! 死に急ぎたがりめ!」


ぼくはもう一度殴った。周りは自分たちの戦いで忙しいらしく、ルカ・ブライトへの加勢は見あたらない。


「俺など! いなければよいのだ!」
「それが馬鹿だって言うんだ! お前が生まれて、国中みんな喜んだよ! お前が今やってることは、お母さんを冒涜してるんじゃないか!」
「なんだと!」


ルカブライトの拳が頬に突き刺さる。手甲の分も相まって、その威力はすばらしく、とっさに歯を食いしばっても口の中は切れるし、鼻血は出るし、さんざんだ。


「だってそうだろ!? お母さんはルカのために気丈に生きたのに、息子がここまで陰険な物の考え方をするなんて、親不孝の極みじゃないか! っていうか痛いんだよ加減しろ!」


あまりにも与えられた痛みがひどく、言葉遣いが乱暴になる。それもかまわずに殴り返すとルカもこちらの首根っこをつかんでくる。


「貴様も加減というものを覚えろ!」
「子供の力なんだからこらえろよ!」


お互いにいがみ合っていると、双方の兵士がどうすればよいかわからない、というように遠巻きでこちらを見ていることに気がついた。
ぼくはルカの腕を振り払い、それでも首根っこをつかんだまま馬上に立ち上がり、言い聞かせるように言葉にした。


「このオウジサマに誰も意見できなかったんだろう! 真剣に怒ってやれる人間なんていなかったんだろう! だからこんな図体だけはでかい子供になるんだ!」
「貴様! 言わせておけばお前もガキだろうが!」
「ぼくは体は子供でも、アンタより大人だよ!」


ルカもこらえきれず立ち上がり、ぼくに殴り返してくる。
座っているときよりも威力が高い。そして油断した。入りが悪い。意識がいきなり飛んでいった。


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