滑稽な平行世界論理

滑稽な和解論-05-


まえもくじつぎ




休戦協定が締結され、街の人々の表情にようやく余裕が見て取れる頃、
不穏な噂が耳についた。


王国軍が同盟軍の領土侵略にたいする報復を行うらしい


そんな動きはなかったはずだ。無理矢理に理由を作ったと言うことか。
何をどうして破壊衝動に生き急ぐ?
行動するすべを持たない自分は、行動原理も予測も読めず、ただ歯がみして柔らかな日常を過ごすしかない。


その折、珍しく手紙が届いた。グラスランドに移住したラウド隊長からだ。
彼の元にも噂は届いているらしく、それに対する内容だった。
あちらには皇子がハルモニアに軍事協力を要請しているらしく、キャロから下って侵攻するらしい、というものだ。

それが正しいとするなら、ぼくは棚から地図を持ち出し広げた。キャロから下と言えばトトかリューベか。トトはミューズをつなぐ境の村だから、ここを先に押さえてからリューベを落とすのが上策か。
ラウド隊長の話も噂なので鵜呑みにすることは出来ないが、警戒することは出来る。
問題は、どうやって警戒するか、だ。


考えあぐねているところに、ナナミに荷物持ちをさせられたジョウイが流れ込むように帰ってきた。後から続くナナミの荷物もジョウイと同じように多い。
食品から日常品、暇つぶしの本までそろっている。


「おかえり。たくさん買い物してきたんだね」
「うん! 良いにおいの石けんがあったんだよ、体洗うの楽しみにしててね!」
「へえ、いいね。葡萄なんかも出回ってるんだ、珍しい」
「今は関所に取られるお金も少ないから、商人が多く来てくれるんだよ」


それだ、と思った。商人になって山を下れば、いろいろな街を巡ることが出来る。
善は急げと言うべきか、地図を乱暴にたたむと、作物収穫用のかごの中に身の回りの物を詰め込んでいく。


「ど、どうしちゃったの? リオウ?」
「ちょっと商人になって山を下ろうと思って」
「な、何言ってるの、リオウってば」


慌てるナナミをよそに、ジョウイは何を言うまでもなくぼくの動向を見つめる。彼に届いた手紙を渡して、準備を進める。


「君は、戦争を止めにいこうって言うのか」
「え、そんな大それたことは出来ないよ。ただ、叱りにいく、というか」
「叱るって……あの男を!?」


信じられない、という彼に笑うと後を頼む、と急ぎ早に家を後にしようとする。
その瞬間首根っこを捕まれて、家の中に引き戻される。


「ぐええっ」
「ちゃんとおねーちゃんに説明しなさい!」


壁にたたきつけられて意識が飛びそうになるのをこらえると、今にも殴りかかってきそうなナナミの仁王立ちが目の前にあった。どうやら自分について説明するしかないようだ。


ぼくは二人に話すことを決めた。そうしなければ、お互いに何かもやもやした物が残るだろうし、家から一歩出ることも叶わなくなりそうだったから。


死んだ母親の友達がルカ・ブライトの母親であること。
いつも母から兄弟のように接するように言われてきたこと。
ゆえに、今の彼の行動をいさめたいと考えていること。


自分の体が特殊で、実際年齢と外見年齢が全く違うと言うことは伏せておく。
それはここに必要ではない話だから。


話を終えるとナナミが抱きついてくる。ジョウイも神妙な顔つきでこちらを見つめる。
二人の口が同時に開く。続く言葉はわかっている。


「一緒に行く!」


こうして、意に反してか介してか、三人でキャロの街を後にすることになったのだった。
自分のいない間に二人に危害が加わることはないと考えると、それはそれで気楽だが、果たして守りきれるかどうかと考えると、いささか不安な面もある。
けれども二人の表情は明るい。ジョウイなんかは夢が叶ったと笑うし、ナナミの出で立ちは商人と言うよりはキャンプに向かう行楽行事かなにかのようで、やっぱりこちらも笑っていた。


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