中庭から流れる歌はもはや日常の一場面のように城内に認められた頃、
リオウの元にジョウイがやってきた。その表情は決意に満ち、リオウの心をざわめかせる。
「リオウ、僕はここを出る」
「……そう」
「君を連れて、ここから逃げ出したい」
「ぼくはここにいるよ。歌うのが約束だから」
「そんなことしなくてもいい、ナナミはきっと泣いてる、君を待ってる」
ナナミのことを出されると弱いところがあり、リオウは頭を垂れた。
けれども、脳裏に浮かんでくるのはルカ・ブライトの寂しそうな背中だった。
自分も何か狂ってしまったのか、リオウは唇をかみしめた。
「君がナナミのところへ行くのなら、ぼくがいなくても大丈夫だ」
「でも、ナナミは君を……待ってるのに」
「ぼくはここで歌を歌ってる。元気でやってるって、伝えておいてね」
「リオウ!」
ジョウイの腕がリオウの肩をつかもうとしたが、それはルカ・ブライトによって阻まれる。
ばつの悪い表情を浮かべるジョウイを、何の感情も浮かべない様子でルカは続ける。
「出て行くのならば、一人で出て行け。お前の理想はここでは潰えた。次の場所でそれを目指すがいい」
ジョウイはルカに一瞥をくれると、勢いよく身を翻し、その場を後にする。
残されたリオウとルカは、何を言うまでもなくその様子を眺めていたが、ぽつりと男の方がつぶやいた。
「クルガンとシードはくれてやろう」
うまく聞き取れなかったリオウはルカの表情をのぞき込もうとする、とたん、大きな腕がリオウを男の胸の中に納めてしまう。
「お前は誰の味方だ」
ああ、まただ、とリオウは思った。寂しそうなこの男をどうすれば慰めることが出来るのだろうか。そんなことを考えてしまう自分は、すでに毒されてしまったのだということにも同時に気がついた。
「今は……ルカ・ブライトの味方だ。好きなだけ、歌ってあげたいと思うよ」
男の背に腕を回し、あやすように優しく叩く。
その寂しさの激情に寄り添えるなら。
今やリオウの中には姉の姿も、同盟軍の姿もなく、ただルカ・ブライトだけが存在していた。