リオウの歌は今日もまた同じ旋律を奏でていた。
しかしその心はここになく、牢に入れられているであろうジョウイのことを思っている。
自分のしたことは間違いだったのか、それがリオウの中をぐるぐると駆け巡っている。
「ジョウイのことか」
リオウの心の内を見透かすかのように言葉が降る。
リオウは振り返り、その言葉の主にうなずいて見せた。
「ぼくも、お前を裏切ったことになるんじゃないのか」
「なぜだ。お前は俺に忠誠を誓っていない。お前はお前のものだ」
同じように牢に入れなくて残念だったな、ルカの笑う声が考えていたことと合致して悔しい思いをするリオウは拳を握りしめた。
自分がとらわれたとき、ジョウイは身の不利かまわず助けに来てくれた。
それなのに、自分はただ歌い、悩んでいるだけなのだ。
「牢から出してやらないこともないが」
「ほんとう!?」
「お前が俺に忠誠を誓うというのならば、な」
リオウは押し黙る。ルカ・ブライトという人間がますますわからなくなったからだ。
自身の母親に似ていると言うだけで手元に置きたくなるものなのだろうか。
それとも、まさしくその通りで、この男は静かに狂っているのか。
「わからない」
「なにがだ」
「おまえがぼくに執着する理由だ」
リオウの言葉に、ルカも目を見開いて固まる。無自覚の産物だったのか、ルカは自分の中の何かを確かめるようにリオウの頬に触れた。
「執着? お前はいつも馬鹿なことを言う。お前はお前を裏切らないと思っているからこそ、試しているだけだ」
「ぼくは、あんたを助けたいと思えば助けるし、その逆も絶対するよ。忠誠は、誓えない」
ルカはリオウの答えにさも愉快そうに笑った。
リオウは首をかしげて笑い声が収まるのを待つ。
「なら、特別に条件を変えてやろう」
「……なに」
「歌え、俺のために」
「それなら、今までと変わらないよ、条件にならない」
またルカは笑い出す。
こいつは普通の人よりねじが一本多いか少ないかだ。そう結論づけて毒づいてみるリオウだったが、ルカのうれしそうな表情に思わず自分も笑ってしまうのだった。
ジョウイが牢から出されたのは、それから程なくしてのことだ。