言われたとおり、リオウは歌い続けている。
せめて服だけでも着替えさせてほしいという陳情が届き、今の姿はジョウイに似た服装となっている。
中庭で毎日、毎日。
朝、昼、夜と歌い続けるリオウは、これに何の意味があるのかと考えた。
おそらく意味はなく、いや、どこにいても歌が途切れたらわかるからだろう、ジョウイがリオウを殺した瞬間が。
しかし、そんなときが訪れることはなかった。
与えられた部屋は召使い用の簡素なもので、リオウは一日の終わりをのどの痛みとともに迎える。
ジョウイに殺される前に、自分ののどが死んでしまうんじゃないかと苦く笑っていると、
ノックもなしに扉が開き、リオウは心底驚いた。
「ルカ・ブライト」
呼ばれた人物はそれに応えることもなく、ベッドに座るリオウの前に立ちはだかった。
「まだ殺しには来ないか」
「見ての通りだと思うけど」
「顔をあげろ」
突然、あごをつかまれたかと思うと顔を上に向けられる。
次に何が起こったかと言えば、首に包帯を巻かれていく。
「暖めればましになるだろう」
痛みのことをいっているのだろう、リオウがうなずくと次は口を開けろ、の命令が下る。
開けた口にほうり込まれたのはのど飴だ。
ころころと口の中で遊ばせてみせると、ルカはリオウの隣に腰を下ろした。
何も言わないまま、口の中で溶ける飴だけが時間の経過を物語る。
溶けて無くなったと思われる頃、男が口を開いた。
「明日は俺も中庭にいる」
「どうして」
「そろそろバラの剪定をしておかないといけないからな」
ルカの言葉にリオウはたまらず笑った。
眉を寄せて不快感を表すルカに、リオウは申し訳なくなってしまう。
「ご、ごめん、ルカがバラっていうのは、想像してなかったから」
「貴様らから見れば花は潰すものだとでも映るだろうな」
立ち上がったその背中はなんだか寂しそうで、リオウは笑ってしまったことを後悔した。
ルカは振り返ることもなく、夜の挨拶もないままに部屋を後にした。