ジョウイに会いに行く作戦は、結局リオウとナナミが旅芸人の衣装を借り、なりすましてルルノイエに忍び込むという手はずになった。
タイミングを見計らうために妙な動きは極力見せないようにし、早朝の鍛錬のおりにこっそりと計画について話す程度だ。
作戦を決行に移す、その絶好のタイミングは思うよりも早く訪れた。
マチルダ騎士団との同盟締結。
そのためにリオウは直々にロックアックスへと向かうことになったのだ。
「ふむ……護衛に旅芸人、ですか……」
人員選びも滞りなく進むかと思われたとき、軍師の眉根がぴくりと動いた。
内心ひやりとしながらも、いざというときの隠れ蓑になる、という前もって用意していた理由を口にすると、思うところがあったのか、軍師はゆっくりとうなずいて理解を示してくれた。
マチルダ騎士団領へと続く山道を脇にそれ、リオウ、ナナミ、ボルガン、アイリ、リィナの五人組は隠し持ってきていた荷物を広げ始める。
「私、リィナさんの服がいい!」
「んじゃ、リオウは私の服を着ろよ」
そろえの服の方が雰囲気が出るとか何とか理由をつけられ、リオウは渋々とその服を受け取り、
草むらに体を隠すと、大きな編み目のシャツに腕を通した。
普段着ている服とあまり変わらないパンツスタイルに息をつき、そして妙な違和感を感じ、リオウは慌ててみんなの元へと走り寄った。
「あ、リオウ、服似合うーって……アレ?」
ナナミが首をかしげるのも無理はない。リオウが口をぱくぱくさせながら顔を真っ赤にするのも無理はない。
「どーせアタシは胸がないよ!」
抗議をする前にリオウはアイリに殴られる。
そう、アイリの服にはいわゆる胸パットが入っており、男が着用しても女性のような胸のふくらみができるものだったのだ。
「そうですね……男女よりも、警戒心は薄れるでしょう。私たちの通行手形をお貸ししても、まずくならないでしょうし」
「でもなんか、リオウへんだよ」
ボルガンの言葉にリオウはうなだれ、ナナミに肩をたたかれる。そこに用意していた甲斐があったと、リィナは手持ちの小さな袋から毛束を取り出した。ヘア・ピースというものである。
「アネキ、準備いい!」
アイリはリィナの手からロングヘアのそれを奪い取ると、リオウにかぶせ、手ぐしできれいに整えていく。
「おお、リオウじゃなくなった!」
「まだごまかしが利く年代で良かったですね」
「リオウ、あんた化粧したらもっときれいになるんじゃないか?」
旅芸人の全員がリオウに向かって賛辞を送る。それに何ともいえぬ表情で答えるしかないリオウだったが、姉のナナミだけは、神妙な顔でリオウを見つめていた。
「誰かに、似てるなあ……誰だったかなあ……」
ナナミのつぶやきはリオウにしか届かなかったらしく、ここに鏡があれば一緒に悩めるのに、とリオウもまたつぶやいた。
「何か芸をやれっていわれたら、踊ったりするんだよ」
「自信はないけど、いざとなったら色仕掛けでがんばる!」
ナナミの決意表明に、みんなで笑い、そうして森の中を予定されていたルートとは違う道をたどっていく。
遠目に騎士の一団を見つけ、気づかれるのではないかと肝を冷やしながらも、そのほかに目立って緊張する場面はなく、洛帝山のふもとまで足を進めることができた。
ハイランドも近いためか、寒さが身にしみる。手渡されたストールを身にまといながら、間近に来たルルノイエの気配に寒さではない別の震えも体に走った。
「山に登らずに、右手にある森を十二時の方向に進むんだ。そうするとサジャの村の裏手に出る」
アイリの説明を頭にたたき込みながら、リオウはうなずく。
「ルルノイエに入るときに、この手形を城門兵に見せてね。グラスランドの旅芸人ですって言うのを忘れないで。マリードからこっちに来たって言えば、警戒心も薄れると思うわ」
「グラスランドの旅芸人……マリードから来た、ね、わかった」
ナナミはリオウの分も手形を受け取ると、三人に手を振って歩き出す。
リオウも慌ててそれについて行きながら、後ろ髪引かれるように後ろを確認する。
「アタシらはシュウに見つからないように街道の村あたりにいるからさ、無事に帰ってくるんだよ!」
「ありがとう!」
リオウの心からの言葉に、旅芸人の一座は笑顔になった。