風鈴

チリンチリン、

風鈴の音が、静かな縁側に染みた。
ここは私の家で、今は先輩の今吉翔一と共に縁側に座っている。
暑かった夏も、すっかり過ぎ去ろうとしている。
風鈴を鳴らすあの暑く湿っていた風も、今ではすっかり冷たくなってしまっている。
私は捲っていた長袖の袖を手首の辺りまで下げた。


「もうすっかり涼しくなってもうたなぁ。」


縁側の外に足を放った今吉さんは、眉を下げて私に笑いかける。
彼の髪は、冷たくなり始めた風に吹かれて揺れている。


「夏の終わりって、何だか寂しくなりますよね」


唐突にそう言ってみると、今吉さんは驚きもせずに笑う。
せやなぁ、なんて呟いて、まだ青い空を見上げた。


「『冷たい』って、どうして人を寂しくさせるんやろなぁ。
寒い寒い雪の日やって、何でか寂しくて堪らへんねん」


今吉さんがそう言うと、真っ白な世界が脳内に浮かんだ。
足跡一つない、真っ白な地面。
そこには誰もいない。
私だけだ。
そう考えると、足跡のないこの地面が急に恐いものに感じられる。
足が竦む。
動けなくなる。
きっとこのままじゃ、雪に埋れて消えてしまう。
そんな馬鹿げた考えが、頭を埋め尽くした。


「なぁに寂しそうな顔してるん?
まだ暑い日は続いとる、夏は終わってへん」


ふと我に返る。
そこは涼しい風の吹く、それでもまだ暑い夏の縁側だった。
不意に今吉さんの手が伸びて来て、私の髪を耳に掛けてくれる。


「夏の終わりに、呑まれたらあかんで?
今年の夏が終わっても、また冬が来て、そして来年の夏が来る。
来年も再来年も、ワシが傍にいたるからな。
せやから心配せんとき、あんたは寂しくなんてない。」


そんな今吉さんの声があまりに優しくて、切なくて、どうしてこんなにも儚いものなんだろう、と視界がぼやけた。
こんな顔は見せられない。
すかさず立ち上がった。


「なにかーーー飲み物、飲み物持って来ます。
何が良いですかね、」


「ワシは何でもえぇよ。
ついでに言うなら、10分位なら待ってやってもええ」


「…はい、分かりました」


流石妖怪サトリとでも言おうか。
全く、今吉さんには敵わない。
彼には私の強がりなんて、お見通しの様だから。
それでも最後の足掻きだ、強がって、笑顔を作る。


「それじゃあ、」


キッチンに向かう途中、我慢出来ずに泣き出した。



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縁側って憧れます。


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