バス停

ブルルルル…

男が唸るような、車の音が聞こえる。
私は、同い年の中村真也と早川充洋と共にバス停にいる。
私達の通う海常高校は家から少し離れているため、私はいつもバス登下校。
彼等も今日はバスらしく、いつも乗っている自転車は持ち合わせていないようだ。


「いやぁ、それにしても暑いねぇ。」


夏は日が長いので、部活が終わって帰る時間になってもまだ少し明るかったりする。
勿論日が出ているなんて事はそうそうないが、今日のような日はきっと熱帯夜だ。
私は帰宅部なので普段彼等と帰りに鉢合わせる事はないが、たまにバスケ部の活動を見に行く。
なので少しばかりは面識があるのだ。
因みに今日は最後までバスケ部の活動を見学していたので、必然的に彼等と帰る時間が同じになった。


「そうだな、今日は一段と暑い!
今日のえんしゅうは流石のおえでもバテバテだったぞ!」


「早川のせいで何か気温が上がった気がするんだけど?」


大して仲良くもない私にフレンドリーに話掛けてくれる早川くんを、冷たくあしらう中村くん。
一見凸凹な彼等だが、ここ二年中々上手くやって行けているようだ。
来年彼等が三年生になった時、二人揃ってコート上に立つ姿を見てみたい。


「ふふ、でもそうだね、私は見てるだけだったけど、二人は練習してたんだもんね。
体調崩したりしてない?」


早川くんは大丈夫そうだけど、中村くんは中々に繊細そうだ。
それに加えて頑張り屋さんに思えるから、より心配なのだ。
まぁ素人の私から見ても中村くんは頑張り屋さんに見えるのだから、彼等の先輩方はきちんと分かっているんだろうけど。


「もちおん、おえは大丈夫だ!
なかむあだってこう見えて、頑丈なんだぞ!なぁ、なかむあ?」


「頑丈かどうかは分からないが……体調管理は、きちんとしてるつもり。
変に体調崩して、先輩達に迷惑かける訳にもいかないし」


額の汗を拭って、照れたように眼鏡を掛け直す中村くん。
本当しっかりしてるなぁ、と感心せざるを得ない。


「それよりも、きみは大丈夫?
俺達は部活してるしある程度なら我慢出来るけど、きみは帰宅部だろ。
体力もそんな無いみたいだし、あんま暑かったらバスケ部の見学とかしなくていいからな。
いつも同じ事しかしてない訳だし」


此方をちらりと見て、中村くんはすぐに視線を逸らす。
未だ来る気配のないバスの方向を見つめながら、小さく溜息をついている。
その横顔を見詰めながら、私はあることを考えていた。


「…中村くんって、モテそう。」


先程から考えていた事を、ぽつんと言ってみる。
すると、歯を見せて子供のように笑う早川くんが答えてくれた。


「お前もわかうか!?
なかむあはモテうんだ!」


「…はぁ!?
何勝手な事言ってんだよ、早川ッ…!」


「だってそうだお?
昨日だって一年の女子に放課後呼び出さえてたし…」


「あ、あれは違くてッ、!」


友達自慢をし始める早川くんと、それを全力で阻止する中村くん。
何方も何処となく楽しそうで、やはり二人は仲のいい凸凹コンビなのだと思ったりした。
そのまま二人で言い争っているのを横目に、私は道路の方に目を向ける。
すると、家へ向かうバスが見えた。
この時間通るバスと言ったらこれくらいしか無かったように思えたので、きっと彼等も同じバスに乗るだろう。


「あ、二人とも、バス来てるよ。」


二人はピタリと動きを止めて、道路の方を見た。
バスが近付いて来る。


「ほら早川、行くぞ。」


「分かってう!」



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二人とも、可愛い後輩のイメージです。


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