夏風

パラパラ、

少し冷たくなった風が、ノートを捲った。
真っ白なノートの頁が、目に痛い。


「今年の夏休みは案の定、勉強ばっかだったねぇ。」


放課後の学校、部活のない夏休みの日。
放課後と言ったって、夏休みに行われる補習の後の教室だ。
まぁもう夕日が沈みかける様な時間な訳だけれど。

そんな教室で、二人きり。
皆は補習後、自習せずに帰ってしまった。
全く受験生だと言うのに、良いご身分だ。
(悲しい事に、私達の友人である小堀と笠松は補習じゃないのだ)


「そうだなぁ。
去年はもう少し遊べたんだけど、残念だったよな。
でも、今年の花火は変わらず綺麗だった」


隣の席で頬杖をつく森山は、私とバスケ部レギュラーと共に見た花火の事を思い出しつつ、ノートに問題を解いている。
きっと思い出の中の花火が美しかったのだろう(または、思い出そのものが美しかったのか)、その口には薄い笑みが浮かんでいる。


「来年も見に行きたいよね、皆でさ」


ね、と森山の方を見る。


「そうだな」


そんな一言を発した森山に、言葉を詰まらせる。
心臓の奥が、きゅうっとなる。

あまりに美しくて、息が止まった。
そんな事を言ったら、笑われてしまうだろうか?
けれど、その通りなのだ。
もう冷たくなり始めた風に揺れる髪も、何処か切なげに細められた瞳も、薄く微笑むその口も、窓を挟んで紅く照らされる白い肌も…

どれもあまりに美しくて、切ない様に見えた。

夏の終わりを連想させるのには、十分過ぎた。
冬になればきっと、恋しくなる。
思い出の中で何倍にも彩られた、暑苦しいようなその季節が。


「森山、」


「もう、夏も終わりだなぁ。
女子の夏服、可愛かったのに。」


一瞬の間を置いて、森山は笑って見せる。
この人は、どうも優しいらしい。


「夏は皆、ガードが薄くなるからさ。
透けるんだよ、下が。」


「あー、早く夏が終わってよかった!
この思春期男子がっ」


目が合って、笑い合った。
さぁ、日がくれる前に、勉強を再開しなければ。




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森山先輩は、イケメンと言うより美人なイメージ。

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