避暑地



ザザザザザザ…

そんなような、水が流れる音が聞こえた。

その日は、部活帰りの暑い暑い夏の日。
偶々はち合わせたクラスメートの菅原くんと共に、私はその道を歩いていた。
あまりの暑さに、汗が滴る。
コンクリートが跳ね返す日光が、じりりと皮膚を焼く。
そんな時に聞こえたその音は、聴覚のみの至福だった。


「この近くって、川流れてるっけ?」


何となく、隣の菅原くんに聞いてみる。
菅原くんはにひひと笑って見せて、私を嬉しそうに見た。


「…見てみる?」


返事をする間もなく、菅原くんは私の手首を掴んだ。
やんちゃな笑みを浮かべながら、緑の多い道へ入って行く。
木々が日影をつくっていて、其処だけ何だか涼しい風が吹いているような気がした。


「こんな所、あったんだね」


「静かで、良い所だべ?
なのに何でか、あんま人に知られてないんだよなー。

で、この先に川が流れてんの。
すっげぇ綺麗なんだ」


さっき聞こえたのはこの先の川の音なんだ、と微笑まれる。
確かに日影の道を進むと、次第に水の流れる音が大きくなっている気がした。
走る度に涼しげな風が吹いて、心地良い。
彼に手を引かれて走るその道は、夏の暑さを忘れさせてくれるようだった。


「ほら、ここ」


少し下って、すぐ。
小さい滝と、ゆるりと流れる川があった。
どちらもそう大きな物ではなく、見た目のみその名の通り、サイズはミニチュアのようだった。

ザザザザザザ、と、暑い道で聞いた音を思い出す。
そうか、この音だったのか。
木漏れ日に照らされ、きらきらと光る水面。
在り来たりな表現しか出来ない自分を、何とも悔やむ。


「な、綺麗だべ」


うん、と頷くと、彼は満足そうに川を見た。


「つめた、」


いつの間にか水中に手を入れていた彼は、そんな事を言いながら手を引っ込める。
ふるふると数回手首を振って、私の首に触れた。


「うわっ、冷たい!」


「だろ?
いい避暑地だよなぁ、ここ」


そう言ったっきり、彼はまた指先で水を遊んだ。
綺麗な手だなぁ、なんて見惚れる程度には、私の体力は暑さから解放、回復していたようで。


「また、来ような。」


そんな彼の声に、無意識のうちに頷いていた私は、暑さでどうかしてしまったのだろうか。




ーーーーーーーーーーーーーーーー



近場にこんないい避暑地があったらなぁ、って。

back