麦茶と扇風機



カランコロン、

言うなれば、そんな音だろうか。
言葉なんかじゃ伝えきれない音と言うのは、沢山ある。
ありのままを伝えるには、聞いてもらうのが一番なのだ。
そしてその例が、最初に挙げた

カランコロン

である。
私としてはコップに注がれた麦茶の中で、氷が硝子のコップに当たる音を表現したつもりだ。
だが今の擬音じゃどうも伝わらない。
だがそれでも伝えたいくらいには、私はこの音が好きなのである。

窓を開けて、扇風機を回す。
テーブルを挟んで向かい合う彼は、私と目が合うと、肩を竦めて笑った。


「暑くない?
クーラーつける?」


彼は時たま、眉を下げて聞いてくる。
そんな時は麦茶をコップごと揺らして、こう答えるのだ。


「私、風を受けるのが好きだから。
山口くんが平気なら、このままが良いな」


それを聞くと彼は、そっか、と返して話を続ける。
彼の話は大半、『ツッキー』と呼ばれる男の人の事だ。
そんなに好きなの?と聞けば、ツッキーは凄いんだ、と返された。
何が凄いのかイマイチ分からなかったけれど、ツッキーは凄いらしい。
山口くんが言うのだ、そうなのだろう。


「山口くん家の麦茶って、甘いね」


彼の話が一段落すると、私はすかさず話す。
こうしないと、延々とツッキーの話をされ続けると思ったからだ。
山口くんの話は面白いけれど、ツッキーの話ばかりだと流石に飽きてしまうと言うものだ。


「え、そうかな?
俺、あんま意識したことなかった」


「うん、私もあんまり意識してなかったけど、何か味が違う気がする」


「へー、そうかなぁ」


ごきゅん、なんて喉を鳴らす彼。
改めて麦茶を飲んだらしいが、分からなかったようだった。


「じゃあ今度、私の家においでよ。
飲み比べてみよう」


え、いいの?と彼は笑う。
勿論、と返すと、扇風機の風が私の髪を巻き上げた。


「扇風機付けて待ってるから。
コップに氷と麦茶注いで、待ってるからね」





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夏、ってかんじ。




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