意図
「あらら、鼻緒が切れてしまったんだね」
太宰さんが私の下駄をちらりと見た。
傍を流れる川の音が、さらさらと聴こえる。
「ほら、そこに座って。私が直してあげようね」
太宰さんが指差した岩の上に、そっと腰掛ける。ふんふん、と、鼻歌を唄いながら私の足下に跪く太宰さん。彼の唇から漏れ出すこの音は、一体何と言う曲だったか。どこかで聞いたことがあるそれに耳を傾けながら、ぼうっと空を見上げた。
「綺麗な星だねぇ」
「ですね」
「川面に映る星も、きらきらと輝いている。触れてみようか。もっと、もっと近くで」
ぞくり。
言葉に出来ない寒気。
視線を星から太宰さんへ移すと、そこにはにっこりと笑う一人の男。
先ほどと全く変わらない、男。
もっと視線を下に移せば、そこには彼の足と私の足を繋ぐ赤い紐があった。
「天体観測と行こうじゃないか。」
切れた鼻緒。
繋がれた赤い糸。
太宰さんは、一歩、川へと踏み出した。
あぁ、私はもう、逃げられない。
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不謹慎ですが太宰さんの心中ネタを書くのは楽しいです。
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