散歩じゃなくてデートです!



「荷物持ち、か」


私の話に黙って耳を傾けていた古橋くんが、そう呟いた。古橋くんの隣に座る山崎くんが、眉間にしわを寄せ強面な顔をもっとしかめさせた。
こわい。よく近くの公園で花火をしたりしてたむろしている不良に似ていた。


「それって要はデートじゃねーか」


よかったなー!と言って、山崎くんはころりと笑顔になる。
気のいい近所のお兄ちゃんのような風貌に変わった。いつもこのような表情をしていればもう少し普通の友達も出来たろうに、と少し可哀想に思った。


「そ、そうなんだよ!花宮くんとの初デート…初デートなんだよ!!」


私ががばっと2人に近付くと、古橋くんは微動だにせず山崎くんは少し身体を引きながらにっと笑った。
今日は古橋くんと山崎くんの2人に、私の花宮くん談議を聞いて貰っている(談議と言っても、ほぼ私が花宮くんとのエピソードを一方的に話しているだけなんだけど…)。
今日の議題は、花宮くんが私を初めてのデートに誘ってくれたという事について。
まぁ実際は花宮くんの口からは「デート」なんて甘い言葉は発せられていなくて、今週末荷物持ちとして部活の備品の買い出しに付き合え、との事だった。
でも何やら私以外は誘われていないらしいし、つまりはそういう事だと解釈していいだろう。


「まぁ失敗しないようにしろよ。あいつ結構気まぐれだからよ」


山崎くんが頬杖をつきながら言う。
…確かに、それだけが気がかりだ。
途端に不安が押し寄せて来て、嬉しくて楽しみなのに今度の休みが少し憂鬱に思えてくる。
…でも、頑張らなきゃ。花宮くんともっと一緒にいるためだ。
その後色々と話し込んだ後2人に応援の言葉をかけてもらい、その場は解散になった。
私もいい友人を持ったものだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「は、花宮くん!」


待ち合わせ時間ぴったりに着いたつもりだったのだけれど、待ち合わせ場所にはもう既に花宮くんの姿。
人通りの多いその場所でも、腕を組んで緩く口を結び立っている花宮くんの姿はひと目でわかった。
ぱたぱたと駆け寄ると、私の存在に気付いた花宮くんは「おせーよ」と言って組んでいた腕を下ろした。
やっぱり私服は新鮮だ。


「ご、ごめんなさい。待ち合わせ時間ぴったりに来た筈だったんだけど…」

「十分前行動は基本だろ。それも待ち合わせ相手が御主人様なら尚更だ。なぁ?」


トントン、と腕時計を指で叩く花宮くん。
飼い犬に待たされたのが気にくわないらしい。
私はごめんなさい、と言って身を縮こまらせる事しか出来なくて、そんな私を見て花宮くんは満足気に笑った。


「次からは気をつけろよ。ほら行くぞ」


そう言ったっきり私に背を向けてお店のある方へ歩いていってしまう。
待って、と言ったけれど勿論聞いては貰えなくて、私は小走りで後を追いかける。そしてその時ふと気付いたのだ。

…あれ、待って。「次からは気をつけろ」ってことは、次待ち合わせしてくれる機会があるってこと!?

どんなにポジティブ過ぎるだとか馬鹿だとか言われても構わない。花宮くんと少しでも距離を縮められればそれで十分なのだ。
そんな事実に気付いた私はスキップ気味で花宮くんの横に並ぶ。
…傍から見たら私達はデートしているように見えるのかなぁ、なんて。
だって、実際付き合っているんだし。そうは思うけれど、花宮くんからしたら飼い犬の散歩くらいにしか思われていないのかなぁなんて思った。
足の長さが違うから歩幅が合わなくて、花宮くんの歩調に合わせるため私は少し早歩きしてついていく。それがどうも小型犬の散歩風景にしか見えなくて、我ながら少し哀れに思えてくる。
ちらりと周りを見れば、腕を組んだり手を繋いだり、そっと隣を同じペースで歩くカップル達の姿。
私と花宮くんもあの中の1組なんだと自分を励ましてはみるものの、現状それとは大きくかけ離れている訳で。
はぁ、とため息をつくと、急に花宮くんが足を止めた。私もよろけながらも慌てて止まる。


「あ、あの、花宮く」

「お前、俺に何かして欲しいことがあるんじゃねぇの」


眉間にしわを寄せて、私を見下ろす花宮くん。
何が何だか分からなくて、私は魚みたいに口をぱくぱくするばかり。
すると突然花宮くんは私の前に手を差し出した。


「…手、繋ぎたいんだろ。ったく、ほら、早くお手しろよ」


その時の私といったら、ご主人様にご褒美を貰った犬そのものだったに違いない。
「はい!」と名前を呼ばれた犬みたいに返事をして、ぽん、と花宮くんの手に自分の手を重ねる。
そんな私の姿を見て、呆れたような照れたような、馬鹿にしたような笑みを浮かべて花宮くんは「行くぞ」と私の手を握った。
花宮くん手大きいなぁなんて考えれば考えるほど心が温かくなって、幸せに包まれる。


「お前は荷物持ちとして呼んだんだからな。ご褒美分はきっちり働いて貰うぞ」


そう言って私の隣を歩く花宮くんの声色がこころなしか優しく感じて、また少し花宮くんとの距離が縮まった気がした。










散歩じゃなくて

デートです!










(少しは花宮くんと恋人らしくなれたかな)

(…なれてると、いいな)


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