嫉妬する彼の台詞 | ナノ


「一哉まだかなぁー…」


真ん中に噴水のある、大きな公園。
いつもよりオシャレして、胸を高鳴らせる私。
それも全部、一人の男の子のため。
その男の子の名前は、原一哉。
私の彼氏である。
今日は何と、一哉とデート。
めんどくさがりで、意味もなくベタつくのが嫌いな(それもめんどくさいからな訳だけど)一哉と、何とデート出来ることになった。
それも何とあっちから誘って来た。
どんな風の吹きまわしだか、古橋くんとランチした話をすると、不貞腐れたように誘ってくれたのだ。
何故不貞腐れているのか分からないが、その後の対応からするとそう怒っていないようだ。
よかったよかった。
一哉が怒っている所なんて見たことが無いけれど、あの集団の中に平然として居られるのだからそこそこには恐いのだろう。


「……それにしても、遅い…」


どれ程待っただろうか、そろそろ電話でもしよう、と思っていた所に、後ろから声がした。


「やぁ可愛いお嬢さん、先程見付けてから早30秒、どうやら手持ち無沙汰なご様子で!
俺でよければお相手させてくれるかな?
何故なら俺とキミが出逢ったのは、偶然ではなく運命だからさ。
この広い世界の中、俺達が巡り会うなんて、運命以外の何物でもない……そうだろう?」


振り向いてみると、どうやら私を見付けてから30秒の男の人が一人。
一哉と同じ位の、高身長。
斜め分けの髪型と、涼しげな切れ目、スッと通った鼻筋が、クールな印象を与えるけれど……話を聞く限り、クールな人ではないようだ。
ナンパしてくる所を見ると(きっとこれはナンパ…だよね?)、彼女がいないように思われるが…
例えこれ程のイケメンだって、この性格では何だか頷ける。


「え、えーっと…」


「あぁ、戸惑わなくていいよ!
これから俺がキミに、ゆっくり愛を語ってあげるさ…
……あ、そうだ、キミの名前は?
俺は森山由孝。
バスケ部なんだけど…」


「何してんのー?
その子、俺が先約なんだけど。」


大分ややこしくなってきた森山さん(?)の話に、どう逃げようか迷っていた私。
そんな時、急に私の前に影が。
見上げると、私を森山さんから隠すように立っている一哉の姿。


「あれ、先約?
彼女一人じゃなかったのか……残念。
ごめんね、彼氏持ちだって知らなくて。
それじゃあまたね、お嬢さん!」


憎めない様な笑み、切れ目の目を友好的に細めるそれを見せると、彼は颯爽と去って行った。
そんなに悪い人じゃなさそうだ。


「…で。
彼氏とデートする前に、男捕まえて遊ぼうとしてたみたいな感じ?
うわぁ零時って意外と欲求不満?
俺もっと頑張った方がいいのかなぁー。」


声がして、其方を向く。
むすっとした、棒読みの台詞だ。
不機嫌そうにガムを咀嚼する一哉が、私を見下ろしている。
風で揺れて、黒々と渦巻く目が見え隠れする。

だって一哉が遅れて来たから、そう言おうとした。
けれど、どうしてか息が詰まる。
う、と言葉が出て来ない。

だって一哉が、あまりに切ない声色で、ぽつりと呟いたから。









あぁいう男が

好きなわけ?









(て言うかさ、早くない?
まだ待ち合わせ30分前だけど)

(えっ、待ち合わせ一時間間違えてた!?)




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