嫉妬する彼の台詞 | ナノ



「あっ、真ちゃんみっけ!」


私こと零時は、友人の緑間真太郎を見つけて走り出した。
彼は私と同い年の高校一年生、かく言う私は秀徳高校一年生帰宅部だ。


「これ、高尾くんが真ちゃんに渡して、って。
今日のラッキーアイテム?

珍しいね、真ちゃんがラッキーアイテムを当日に用意するなんて」


真ちゃんを見上げながら、私は高尾くんから預かった袋を彼に渡す。
高尾くん曰く、袋の中身はリボンのカチューシャらしい。
高尾くんは今日、朝から用事らしく、私が預かったのだ。

私から袋を受け取ると、真ちゃんはため息をつきながら頭を抱える。


「……俺としたことが、昨日は忙しくラッキーアイテムを探す時間がなかったのだよ。

……人事を尽くさず、何の天命を待つと言うのだ…」


「…ま、まぁまぁ。
そう言う事もたまにはあるって、元気だしなよ」


「…別に落ち込んでなどいない」


完全に落ち込んでるじゃん…。

そんな彼を慰めるのに、朝の大半の時間を費やした私。
その後真ちゃんと別れて、何事もなく一日を終えるかと思えた。

………が。


「零時、宮地先輩が呼んでるよ!」


きゃあきゃあ、と騒がしい教室の外。
帰りのHRが終わり、帰る支度をしていた私を友人が呼んだ。


「あっ、今行くから!
ちょっと待って貰って!」


宮地先輩こと宮地清志さんは、我が高校のバスケ部スタメン。
私の恋人でもある。
頭が良くて身長が高く、顔もかっこいい、しかも運動も出来る。
……これだけ聞くと、ほぼ完璧人間である。
いや、確かにほぼ完璧なのだ。

……口の悪さを除けば。


「すみません、お待たせしました!」


帰りの支度を終わらせ、走って教室の外へ出る。
案の定そこには宮地さんが、腕を組んで待っていた。
オマケのように、宮地さんのルックスに惚れ込む女子達が。
その中には、二、三年だけでなく一年生までもがいた。
そんな彼女達は、私を一瞥し睨んできた。

……こんな平凡な私が彼女なのを、憎んでいるのだろう。


「あぁ、待たされた。」


「…す、すみません……。

あ、そう言えば今日は、部活ないんですか?」


いつもなら、彼は今頃ジャージ姿の筈だ。
誰よりも早く体育館に行って、誰よりも早く練習を始める。
そんな努力家が彼だった。


「ある。
だけど、お前に話したいことがあったから先に来た」


私の為に部活の時間を遅めてくれたらしい。
それほど大事な用なのだろうか。


「話したいこと、ですか?
それなら、今すぐ伺いますよ!

宮地さんを待たせるわけにはいきませんから!」


「あー、まぁ、大事な用だからな。
ここで話す訳にもいかねーんだわ。

…誰もいねぇ所で、二人で話したい。
いいだろ?」


「全然大丈夫です!

それに断ったら、私轢かれちゃいますよね?
木村先輩の軽トラで….」


笑交じりに言うと、宮地さんも

よく分かってるじゃねぇか、と笑っていた。











「え、えーと……いいんですか?
こんなところ…」


連れて来られたのは、誰もいない更衣室。
机上に置かれているのがバスケ雑誌ばかりな所を見ると、どうやらバスケ部の更衣室らしい。

…そもそもこんな所、無関係の私が立ち入っていいのか。
二人きりになる、と言っても、ここまで誰もいない所に連れて来られるとは…

私が辺りを見回していると、何故か更衣室の鍵を閉めて来た宮地さんが帰ってきた。


「あ?
いいんじゃねーの。
どうせこの後俺が着替えるし…

………そんな事よりも、だ。」


宮地さんは、私をベンチに座らせた。
自分も向かいに座って見せる。


「お前、朝緑間とすっげぇ仲良くしてたろ。」


「え、いや、そんな事…」


「『ない』なんて言わせるかよ。
お前がどう思ってようが、彼氏持ちの女があんなに他の男と親しくするか?普通。

俺の入り込める空気なんてありゃしねぇ。
おかしいだろ、そんなの。

木村がいなかったら、多分俺今頃轢いてたぞ、緑間のこと。」


校内なのに、轢くんですか?

なんて馬鹿な疑問が浮かんだけど、宮地さんの顔を見た瞬間吹き飛んだ。
だって、怒っていたんだ。
今までにないくらい、不機嫌そうだった。


「…宮地さん、それって、もしかして」


私が勘付いたように言うと、宮地さんはバツが悪そうに目を逸らした。










あぁ

気にいらねぇよ、

悪いか











(私って、愛されてますね。)

(何今更言ってんだ、轢くぞ?)


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