小説 | ナノ

山崎弘



「うー、寒い…」


手先が冷えて、痺れる。
指を曲げるのも一苦労だ。
最近一気に冷え込んで来た。
大した防寒対策もしていない私は、はぁ、と指先に息を吹きかけた。
暖かいのは一瞬限りで、また冷たい空気が指にまとわりつく。


「ザキ、寒いんだけど」


どうにかしてよ、と無茶振りしてみると、鼻を赤くしたザキが此方を振り返る。
白い息を吐いて、


「俺にどうしろって言うんだよ。」


とだけ言った。
全く冷たい男だ、だからモテないのだ。
ひっそり心の中で毒突いて、冷えた手を擦り合わせた。
相変わらず氷のように冷たい。
すると、後ろから手が伸びて来た。
その手は無防備な……つまり、何の防寒対策もしていない、私の首に触れた。
つまりは、冷たいのだ。とてつもなく。


「ひっ!?」


飛び上がるように振り向くと、ニヤニヤ顏の原くんがいた。
マフラーをして、暖かそうなコート、そしてヘッドホンを付けている。
中々に暖かそうではないか。


「…や、やめてよ!」


見ての通り、寒いんだから。
そう言うと、原くんはそのままにやりと笑って、


「知ってるよん。」


と言って見せた。
何と性格の悪い……流石霧崎第一のバスケ部スタメンだけある。


「だから、暖めに来てあげたんじゃん。
原ちゃんやっさしーい」


一人で拍手なんかして、少なくともからかいに来たとしか思えない。
とても私の為に来たようには見えないからだ。
一通りはしゃぎ終えた原くんは、ほら、と私に手を差し出した。
あんなに暖かそうな格好をしていたのに、そう言えば手袋をしていないな、と彼の手を見て思っていた。


「ねぇ、零時?
寒いんでしょ、ほら早く」


…手をとれ、と言う事だろうか。
でも、いくらなんだって、流石に抵抗はある。
私とて女子だ、付き合ってもない人と手を繋ぐなんて、考え難い。


「…手を繋ぐ、ってこと?」


そう確認するように問えば、原くんは面倒くさそうに


「まぁそうとも言えるよね。
…で、繋ぐの?繋がないの?」


と急かした。
乗り気でない私を面倒に思ったのだろうか。
私が仕方なくその手をとろうとすると、前方から足音が聞こえた。
走って来ているみたいだ。


「おい!」


ザキの声だ。
私が顔をあげようとすると、原くんが

「来た来た、」

と笑った。
何が、と思い顔を上げれば、むすっとした顔のザキがこっちへ走って来た。
いつも人相の悪い顔なのに、あんな表情をしたら人も寄り付かなくなりそうだ。


「原ァ、何やってんだよ!」


鬼の形相で詰め寄るザキに対しても、にやにやとした口元を崩さない原くん。


「別にぃ?ザキには関係ないっしょ。
この子と付き合ってる訳でもないんだしさぁ」


原くんのそんな一言に言い返せないザキは、今度は何故だか私の方へ歩いて来る。
そして、ほら、と手を差し出された。


「…何だよ、嫌なのかよ。
……それとも、原の方がいい?」


ぽつん、と聞こえて来た声が、不貞腐れていたように聞こえたのは……私の思い上がりだろうか?




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