小説 | ナノ

福井健介


「お前ってほんとチビだよな」


正確には言わないけれど、女子の平均身長よりかは低い身長の私。
そんな私は、我が校のバスケ部レギュラー内では最低身長の福井先輩にいじめられている。
二年生である私は、バスケ部マネージャー。
なのでどうしたって、福井先輩とは会わなければならないのである。


「福井先輩だって、むっくんから見たらお子様みたいなもんです!」


「お前だって俺から見たら、お子様みたいなモンだっつーの」


わしゃ、と頭を撫で回される。
実を言うと私は、この行為が嫌いではない。
勿論腹は立つが、頭を撫でられるのは落ち着くのだ。
これが福井先輩だからなのか、頭を撫でられるのが好きなだけなのかは分からない訳だが。


「何二人でイチャイチャしてんの〜?
俺をダシにしないで欲しいし〜」


妙に間延びする声が頭上からすると思ったら、208センチの巨人だった。
我等がWエースの片割れ、紫原敦くんだ。


「あ、むっくん!
さっきね、福井先輩が私の事チビだっていじめてきて…」


「はぁ〜?
だってあんた元々チビじゃん。
勿論福ちんもちっちゃいけど〜」


「なっ、」


先輩に向かって『あんた』!?
先輩に向かって『チビ』!?
何方から叱れば良いのか分らない。
流石氷室くんと友人関係になれるだけあるなぁ、なんて感心する。


「…って言うかさぁ、もしかして零時、福ちんが自分の事嫌いかも、とか思ってる〜?
それってとんだ大間違いでしょ。」


ボリボリ、とお菓子を口に運ぶむっくん。
その言葉の続きを、私だけでなく福井先輩も待っていた。
私にとって先輩の言葉は、先輩の私への嫌いの念の表れだと思っていたから。
もしそうでないのだとしたら、一体何だろう、と気になったのだ。


「それって、福ちんの愛情表現でしょ〜?
小学生の男子が、好きな子いじめるみたいな。」


「え」


「俺室ちんに呼ばれてたんだった〜、
じゃあねー」


空いた口が塞がらないとはこう言うことだ。
むっくんにお別れを言う暇もなく、色んな事が頭を過る。
それはどれも、今まで福井先輩に言われて来た悪口だ。
それももう、チビだの子供だの、思い返せば数え切れないほどに。


「え、えと、福井せんぱ、」


何を言おうとしたのか自分でも分らない。
それでも何かを言おうとして、言葉を紡ぐ。
が、私の声に被せるように、福井先輩が言った。


「うるせ、チビ。」




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