小説 | ナノ

青峰大輝



「いっまよっしさーん」


休み時間、三年の教室にて。
何故一年生の私が三年の教室にいるかと言うと、一言で言えば私が馬鹿だからである。
一年から勉強について行けず、一番頭の良さそうな今吉さんに勉強を教えて貰いに来ていると言う訳(最近は諏佐さんに教えて貰う事も多い)。
今年受験である二人に教えて貰うのは良くないかな、と思ったのだが、友達のいない私にとって誰かと勉強するなんて事そうそう出来そうに無かった。
ほぼ唯一と言って良い友達である青峰だって、勉強嫌いで知られる為私と勉強してくれる筈もない。
本人に聞くまでもなく、私は三年の二人に教えて貰うしかないと言う訳だ。


「お、深夜やん。
どないしたん、勉強?」


「はい。今暇ですかね…?」


教室の中から、今吉さんが出て来てくれた。
私の問いにも、勿論やで、と頷いてくれる。
二人で図書室へ向かった。
休み時間はまだまだある。
これなら、今日の分からない分は教えて貰えそうだ。


「それにしたって、勉強熱心やなぁ。
えぇトコの大学でも目指してるん?」


ノートに数学の公式を書きつつ、私に問い掛ける今吉さん。
この問題ではその公式が鍵を握るみたいだが、私としては見覚えがない。
全く授業中の睡魔には困ったものだ。


「いえ、そう言うんじゃないんです。
私、人より理解力がなくて。
一回の説明じゃ、分からないから」


「へぇ……そんでワシに聞きに来てる訳やな。」


「はい、毎度毎度すみません」


「あぁ、ええってええって。
せやなくてな、そんな台詞、青峰にも聞かせてやりたいってモンや」


ケラケラ、笑つつ、今吉さんが眼鏡の位置を直した時。
ふいに私の背後に気配、その直後に頭に重い感触。


「どーせ深夜は説明聞いたって出来ねーだろ、勉強なんか」


聞き慣れた気怠げな声。
この声は…


「青峰!
あんた何なの、私がこんなにも頑張って勉強してるのに……邪魔するなら、あっち行ってよね!
今吉さんだって、暇じゃないんだから!」


青峰大輝。
私の数少ない友人だ。


「ただ話し掛けただけじゃねぇかよ。
そんなキレなくていーだろうが。
あー、馬鹿な女は困るぜ、全く…」


ふらり、と図書室から立ち去った。
何しに来たんだ、彼奴…

そう思っていると、今吉さんが愉快そうに笑った。


「青峰のヤツ、小学生の男子並みの愛情表現やんな、ほんま…」


「…愛情表現、ですか?
あれが?」


「せやで。
そうやなかったら、勉強嫌いの彼奴が図書室なんかけぇへんって。」


…確かに、言われてみれば。
青峰が図書室に来るなんて、そうそう無いんだろう。
もしそれが、私への好意の現れだったとしたら……?


「…何それ、恥ずかしい」


まるで熱でも出たように、頭がくらくらする。
青春やなぁ、なんて今吉さんの声も、割と嫌じゃなかったり。




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