私達はどこかおかしい



私の恋人は、無口だ。それに加えて、とても無表情で何を考えているか分からない。告白も私からで、向こうが本当に私を好いているのかも分からないくらいだ。
だから友人主催の合コンのような集まりに人数合わせで参加したのも、ほんの出来心のようなものであった。
今回参加した集まりは、合コン形式の集まりではあるものの無論私達も学生なので男女合同で遊ぶ、という感じだった。
普段は古橋くんとの連絡のすれ違いを避けるため出掛ける際はまめに連絡をするのだけれど(あまりにまめ過ぎて以前の彼氏からは愛想を尽かされた)、今回は集まりの趣旨的な問題で古橋くんには報告しないことにした。別に私の行動を古橋くんに伝える事が義務な訳ではないし、今回のことも無理に隠すつもりはなく聞かれたら答えるつもりだった。

散々遊んで、もうすっかり外は暗くなっている。タバコくさいカラオケルームから出てきた私達は、次はどこへ行こうかと近くの店を検索していた。
帰ろうか残ろうか迷っていた私がそっと携帯の電源をつけると、そこにはメッセージと着信が1件ずつ。どちらも恋人である古橋くんからのものだった。


「ごめん、電話来たからちょっと待ってて」


友人達にそう告げてその場を離れる。
誰もいない場所でメッセージを確認すると、『今どこにいるんだ。』の文字。あまりに簡潔な文字列に、つい笑みが零れる。
ひとつ深呼吸をして古橋くんに着信をかけると、2コール目で繋がった。


「あ、もしもし古橋く」

「今どこにいるんだ。」

「え、えっと、駅前のカラオケ店」

「誰と。いつから?何の理由があって俺に秘密でそいつらと会ってるんだ」

「ちょ、あの、古橋くん落ち着いて」

「原から聞いたぞ。零時が校内の男と会っていると」

「それは友達に誘われて」

「言い訳はいい。早く顔を見せてくれ」


こんなに取り乱した古橋くんは初めてだった。
付き合う前も、付き合った後も。誰と絡んでいてもいつも冷静で表情を変えなかった古橋くんが、今確かに電話越しでも分かるほどに取り乱していた。
理由は何となく分かるけれど、普段物静かな古橋くんがそんなことであんなにも取り乱すだろうか?何か他の理由があるのかもしれない。
私はすぐに友人達にことわって、その場を離れた。古橋くんに先ほど指定された場所へすぐさま向かう。


「あ、古橋くん!」


もう既に到着していたらしい古橋くんは、私を見つけ次第いつもの真っ暗な目でこちらを見た。


「零時」


私の名前を呼ぶと、ただじっと私を見下ろした。


「俺はおかしいのかもしれない」


いつもと変わらない、何もない表情を浮かべて古橋くんは言った。


「だが、零時があいつらよりも俺を優先してくれて安心した。もしそうでなければ、俺は何をしでかしていたか分からなかったから」


いつもと同じ、抑揚のない口調で紡がれる異常な言葉。古橋くんは、彼の言う通りやはりどこかおかしいのだろうか。


「もうこれ以上俺を不安にさせないでくれ。俺に秘密を作らないでくれ。
お前の事を全て知っていないと不安になる。お前がいないと生きていけないんだ」


彼は、真っ暗でそれでいてすがるような目で私を見下ろした。
苦しい。
うん、とただ一言呟いて頷いた。
古橋くんは「そうか」と一言言っただけだった。
やっぱり古橋くんはどこかおかしい。
そんな古橋くんから逃げられない私も、きっとどこかおかしい。









私達はどこかおかしい






勝手にヤンデレ企画第1弾。
2弾目があるかは不明

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