08

同じチームメイトになったのだから、最早運命共同体。少しくらいならば、こちらの手の内を見せてもいいだろう。
リイは、ネジと組手をしながら、狙いを定めた獲物のように瞳を歪ませた。
ぞくり、とネジの背に悪寒が走る。次の瞬間突進してきたリイを、ネジは腕を交差させた状態で受け止めた。
こちらから攻撃をすれば、蝶がひらりひらりと風に遊ぶように、軽やかな動きで躱される。
六式『紙絵』。相手の攻撃から生じる風圧に身を任せ、攻撃を躱す奥義だ。

「攻撃はもう終わりですか?…それなら、こちらから行かせてもらいます!」

どこか艶っぽくすら感じる不敵な笑みを浮かべ、ひゅっと地面を蹴ったリイの姿がネジの視界から消える。
後ろか、とネジが振り向いた先では、リイが踵を振り上げ、体重を乗せた回し蹴りを放とうとしていた。

「虚刀流、百合!」

勢いよく腰をひねり、体重分の重圧が加算された強烈な蹴りが放たれる。しかし、バカ正直にその攻撃を受けるネジではない。

「くっ」

白眼の能力を十二分に駆使し、次々と繰り出されるリイの技を躱し、いなす。

「牡丹!!」

更に回転を加えた後方回し蹴りが、ガード体制に入ったネジの体を吹っ飛ばした。
踏みとどまったネジが、砂煙を上げながら地面を滑る。額からつうっと流れた汗を拳でぬぐい、砂埃の先で視線がぶつかり合う。

「やるな…」

「そちらこそ」

ネジとリイの口角が上がった。忍術が使えない分幼少時よりすべての時間を体術に費やしてきたリイと、日向家始まって以来の天才と名高いネジ。剛拳と柔拳を競い合う二人にとって、忍術を使わないこの組手は日課のようなものだった。

一見すると、忍術を使うことのできないリイにネジが合わせているかのような修行だが、実際はそうではない。
純粋な体術、スピードなら、リイのそれはネジを上回る。この組手は、それを踏まえた上での、ネジの白眼による攻撃の見切り精度を上げるためのものでもあるのだ。

「ちょーっと、そこまでにして休憩しない?まったく、アンタ達よく飽きないわね。もう一時間も取っ組み合ってるっていうのに」

両手に水筒を持ちながら割って入ったテンテンは、あきれたように笑いながら二人に傍の岩場に腰かけるよう促した。



このメンバーで班を組んでから早数か月。
最初はどうなる事かと思ったものの、彼らはそこそこ仲良くやっていた。



「飲んだら再開しましょう。次こそは一本取ります」

「フン、できるものならな…」

睨み合うリイとネジ。そんな二人の様子に、テンテンはまた始まった、と肩をすくめながら右手に持った茶の入った水筒を傾けた。
と、その時、不意に背後でボフン!という大きな音が鳴った。
三人が一斉に振り向く。


「ようお前たち!今日も青春してるなーっ!」


毎度の如く、ポーズを決めながら唐突に表れた担当上忍・ガイに、振り返ったネジとテンテンは、隠す事もなくげんなりとした表情を浮かべた。
この数か月の間に少しは慣れたというものの、朝からこの濃さと熱さは、正直キツい。

「おはようございます…」

うんざりした表情を浮かべたまま挨拶をしたテンテンは、そのままの表情で視線を横へと動かす。
ガイの濃さには、確かにげんなりさせられる。
しかしなんといっても、ガイが登場する事によってネジとテンテンがげんなりする一番の原因というのが―――。


「おはようございますガイ先生っ!きょ、今日も爽やかな青春を感じる、凛々しくも素敵なお姿です…っ」


ビスクドールのように美しい曲線を描き、弾力がありそうなふっくらとした白い頬を薄桃色に染めながらもじもじとガイに挨拶をするリイ。
その態度の露骨さは日を追うごとに増すばかりで、先ほどまでの態度とのあまりの落差に相変わらずネジとテンテンはついていけない。
一方、当の本人であるガイは、子供の言う事と特に気にしていないのか、「リイよ、今日も熱血しているな!いいことだ!ハッハッハ!」と快活な笑い声を上げていた。

「先生、今日の任務は何でしょう?」

「んん、そうだなあ…まだ聞いていないが、ここのところ里内も平和だし、そんなに難しい任務はないだろう。精々Cランク程度ってところか」

「そうですか…。ところで、あの、私、今日もお弁当を作ってきたんです…!ガイ先生、あとで食べて下さいますか…?」

顔を赤らめて恥じらう美少女からこんな事を言われて断れる男が居るものか。
さらに言うなら、ガイに食べてもらうためだけに料理の腕を磨きに磨いたリイの作る弁当のレベルが最早プロ級のものだと知っているネジとテンテンは、その途方もない熱意にため息を吐かざるをえない。

どうしてこうなった…。

木の葉の里の中でもとんでもなく濃く、暑苦しい代表のおっさん(まだ二十代ではあるが)と、老若男女あらゆる人を虜にする美貌と優美さを持った美しい少女。
しかもその矢印の方向は、美少女からの一方通行と来た。
リイからの猛烈アピールをものともしないガイは、勿論ネジとテンテンの『おいあんたの教え子明らかに態度がおかしいだろ、気付けよ』という視線にも気付かない。


幸か不幸か、稀代の美少女として木の葉の里中に名を響かせるロック・リイのこんな姿は、未だ班員であるネジ達しか知りえない事であった。







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