05
(人並み以下の体術、か)
誰も知らない、木の葉のはずれにある小さな森の少しだけ開けた場所は、リイにとって幼い頃からのお気に入りの場所であり、秘密の修練場でもあった。
右、左、叩き込む連撃の後に体を一回転させ、体重を乗せた回し蹴りを繰り出す。息をつく間もなく幹の太い木を相手に包帯を巻きつけた拳を叩き込むリイは、ふと動きを止めると額を伝う汗を拭い、大きく深呼吸をして気を収めた。
忍としての繋がりを何ら持たないリイに、体術の師など居るはずもない。
だからリイは、頭の中の知識だけを師に、この世界で生きていく決意をしたあの日から、ただひたすらに我流の修行を続けてきた。
基礎体力と筋力をつけるトレーニング。もちろん、幼い身体であまり無理をするのはよくないということを重々承知していたから、適度にそれを行いつつ、高めた身体能力を使って『技』と呼べるものを編み出した。
人を超えた超技である六つの体技『六式』と、それを応用して自らの体をひと振りの刃と同等として扱う拳法『虚刀流』。
リイは幼いながらも過酷な訓練を繰り返し、チャクラや忍術を一切使えない代わりに、自らの肉体を何よりも強靭な武器として扱う術を身につけていた。
アカデミーでのリイは、忍術の成績こそ最低評価だが、アカデミーレベルの体術、忍具、座学では、そこそこの成績をはじき出している。
これ以上余計なやっかみや注目を集める事は得策ではないと踏んだリイは、こと体術に対しては余計な実力を見せないように細心の注意を払っていた。
そもそも、ここは忍者の里で、自分は忍を目指しているのだ。さらに言うなら、体術しか使えないというハンデがある分、リイは尚更自分の手の内をそう簡単にひけらかす訳にはいかなかった。
リイにとって、この体技・体術は切り札であり、ここぞという時に使うべき奥の手そのものだ。むしろ、他人から「人並み以下の体術しか使えない」と言われる方が、リイにとってはありがたかった。
(でも、やっぱりちょっと悔しいかも)
「嵐脚!!」
リイの強烈な蹴りによって巻き起こった鎌風が、太くがっしりとした幹の木を大きく抉る。
こんな事で晴れない胸の内を晴らそうとしても仕方がないと分かっていたが、やらずにはいられなかった。
「はあ…」
全て、この世界で生きていくためには仕方のないことだ。
諦め混じりにため息を吐きながら、リイは更なる修行を続ける為に、再び構え直した。
この木には申し訳ないが、今日は折るまでやらせてもらう。
リイは駆け出し、既に抉れている木の幹に向かって鋭い掌底突きを繰り出した。
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