04

先代火影である二代目火影によって創設された忍の養成機関、いわゆるアカデミーには、忍としての才能がなければ入学することはできない。
そのアカデミーに、忍術はおろかチャクラを練ることすらできないリイが入学できたのは、何年も前から必死で訓練してきた体術と、その恵まれすぎた容姿がくのいちとして利用できるものだと判断されたからだった。
忍としての才能が無いと判断されてアカデミーの入学試験に落ちた子供を何人も見てきたリイは、正直に言って、自分がアカデミーに入学できたのは奇跡に近いと考えていた。恐らく、決め手となったのは成長するごとに輝きを増すこの人並み外れて整った外見と、その外見をより引き立たせる為に体に叩き込んだ所作のお陰であろう。
男に比べて力に劣る為、どちらかというと戦闘より諜報任務に従事する事の多い女忍、いわゆるくのいちとして、この顔は大いなる武器となる。
しかし、当たり前だが顔がいいだけでくのいちになれる訳ではない。いくらなんでも、忍の世界はそこまで甘くない。
リイは、自分の外見がどんな技術よりも大きな武器になるということを自覚していた。だから、この数年、体術を極める過酷な修行をする間にも、自らの美を最も美しく引き出す所作を研究し、体に叩き込んでいた。
例えば歩き方。振り向き方。視線の動かし方。指先一つ動かす動作にも、優美さと可憐さを忘れずに。最も魅惑的に見える表情の作り方、人の心を掴む笑顔、動揺と同情を引き出す涙、不快感を与えない言葉遣いと声のトーン。
女優もかくやという血の滲むような努力の果てに、今やリイは里一番の美少女と名高い美少女に成長していた。
まさか周囲の大人も、十歳に満たない可憐な少女が一切の行動すべてを計算し尽くした上で行っているとは誰も思わないだろう。
サラサラと風に靡く美しい黒髪を後ろで三つ編みに束ね、淡いグリーンのシンプルなチャイナ服を纏ったリイは、そこに座っているだけで一枚の絵になりそうな美少女っぷりをアカデミー内でも遺憾なく発揮していた。
とんでもない美少女の上に、授業態度もよく、真面目で座学の成績もトップ。そんなリイを教師たちはもちろん可愛がったし、単純な男子はリイが窓辺の席で物憂げに目を伏せている所を横目で盗み見ては顔を赤くして口々にリイの美しさを褒め称えた。

しかし、面白くなかったのは同年代の女子である。
いつの時代も女の敵は女。満足に忍術も幻術も使えない癖に、教師や男子にちやほやされるリイは、同年代のくのいち達にとっては鼻つまみ者もいいところだった。
なんといっても、気に入らない、と彼女らがリイにちょっかいを出せば、他の教師や男子達が口を出してくるのも、疎まれる原因のうちの一つだ。
バレないように陰湿にイジメを行おうとも、当の本人はどこ吹く風。無視をされても仲間はずれにされても、物がなくなっても持ち物に悪戯をされても、リイは一切気にしていなかった。
それもそのはず、何を隠そうリイは外見こそ十歳にも満たない少女だが、中身は成人した女性。所詮は子供のする事と割り切って、反応するだけ無駄で逆効果であると知っていたからだ。

アカデミーのグラウンドでランニングをしながら、周囲に並んだ女子たちが「あんたなんかがくのいちになれる訳がない」「だいたい、忍術も使えない癖に忍者になれる訳がないのよ!」と口々にはやし立てる。
「人並み以下の体術しか使えない癖に!」「このアカデミーに居る事自体、ナンセンスなのよ!」

リイはちらり、と隣を走っている女子へと目を向けた。不意に向けられた視線に、思わずその女子はびくりと肩を動かす。美少女の視線というのは正直、それだけで攻撃である。



「フフ、あれが噂の新入生、“異端の美少女”かぁ…」



建物の中からその光景をなんとなく眺めていたガイがポツリと呟いた言葉に、カカシも窓の外へと視線を向けた。

「忍術も幻術も使えない、か…まるで昔のオレだな」

窓枠に頬杖をついて少女たちが走る様を眺めるガイに、カカシは思わずため息をつく。「ガイよ…」
カカシに呼びかけられ、ガイが振り向けば、カカシは微妙そうな表情を浮かべて生ぬるい視線をガイへと向けていた。


「そうして女の子たちを眺めてるとお前の外見からして不審者に見えるから止めた方がいいと思うぞ」


これには、流石のガイもキレた。







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