03

漫画、『NARUTO』、木の葉隠れの里、忍の世界。
そんな世界で、『ロック・リイ』という少女は、ごく普通の家系に生まれ、忍でない一般人の両親を持つ、ごく普通の子供だった。
ただ一点、とんでもない美少女である事を除けば、どこにでもいる普通の子供。忍としてなんの才能もない―――。

「ふん…っ!!」

図書館で借りた『これで君も忍者になれる!素質が分かる!?忍術の基礎〜チャクラ編〜』というなんとも胡散臭いタイトルの本に書かれたチャクラの原理、発動の仕方などを見ながら、早速忍術の修行をしてみようと術を試していたリイは、己の『忍としての才能の無さ』に愕然としていた。
まずもって、己にはチャクラが殆どない。流石に全くないという訳ではないが、とてもじゃないが術を発動させられるようなレベルではない。これは恐らく、体が未発達な子供だからだとか、そういった事が原因ではないと、リイは諦め半分に納得していた。
そもそも『ロック』という家は忍とは殆ど無縁の一般人の家庭なのだ。木の葉隠れの里は忍の隠れ里ではあるが、そこに住む人すべてが忍であるという訳ではない。そしてその忍でない人々に、リイの両親も含まれていた。チャクラのチの字もないリイの血筋に、忍者として活躍できるほどのチャクラを期待するだけ無駄というものだ。

そして恐らく自分は、『NARUTO』の『ロック・リー』の立場としてここに存在している。

『ロック・リー』は忍として忍術の才能に恵まれず、努力を重ねて高めた体術だけで忍になった、という設定のキャラクターだった。という事は、いくら頑張っても自分には忍術の才能はなく、可能性があるとすれば、体術しかないのだろう。

リイは思わずため息を吐いた。とんでもないことになったものだ。

リイは、これから約十年程先の未来までを知っている。自分がどういった存在なのか、この里が、この世界がどうなるのか。
六道ペインに全壊させられたり、マダラによって滅ぼされようとする世界で、このままなんの努力もせず一般人として過ごせばどうなるか。

(…死ぬ。確実に死ぬ)

少しでも自分を守る力を身に付ける。こうなった以上は、簡単に死にたくなどない。
元の世界に帰れるという望みは薄いが、少なくともリイはこの世界で死にたくはなかった。
もちろん、リイは積極的に忍になりたいという訳ではない。なんといってもここは少年漫画の世界。戦闘になれば汗まみれ血まみれ傷まみれ、とてもじゃないが今まで暴力沙汰とは無縁の世界で生きてきたリイにとって、そんな世界はできれば遠慮したいに決まっている。
しかし今のリイにとって、最も生き残る可能性が高い道が、忍になる事、それ以外にない事もまた事実だった。

(忍として生きない道を選んだ『私』が、この先を生き残るかどうかも定かじゃないし…)

それに、とリイは空を見上げる。
爽やかに晴れ渡った秋の空。あの時のガイの優しい笑顔が脳裏にちらつく。

リイはそっと胸を抑えた。見た目は四歳児だろうが、中身は成人した女性だ。この感情がなんなのか、大体の検討はつく。

知らない世界でたった一人泣いていたリイの手を、優しく握ってくれた人。


(私は、できることなら、あの人の隣に立って、この世界を生きてみたい)


感じるのは憧れと、安心感。

リイの中で、あの不安でたまらなかった時の自分を助けてくれたガイは、とても大きな存在になっていた。
恐らく自分が『ロック・リー』としての立場にいるという事も多少は影響しているのだろうが、その感情は、異なる世界で一人生きなければならないリイにとって、支えとなる唯一の想いだった。

(強くなろう。もう、泣かないように。いつか私を助けてくれたあの人に、恩返しができるように)

決意を新たに、リイは拳を握り締める。
例え忍術ができなくても、体術がある。努力をすればきっと強くなれる。それは、漫画の中の『ロック・リー』が教えてくれた。
ならば、自分にできないはずがない。
リイは空に向かって拳を突き出し、叫んだ。



「私は、負けない!!」



近くの木に止まっていた鳥が数羽、声に驚いて空へと飛び立った。







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