34

弾かれたようにカッと目を開き、リイは勢いよくベッドから起き上がった。

(ここは…)

執拗なまでに白で統一された部屋。リーが居た真っ暗な空間とは対照的に、明るく、目に痛いほど眩しく存在を主張するその色が、妙な非現実感を伴ってリイに纏わり付く。

(………病院?)

リイは半ば呆然としながら周囲を見回した。静まり返った室内では、点滴の落ちる水音と時計の針が進む微かな音が規則的なリズムを刻み、その音がリイの意識をだんだんと鮮明なものへと変えていく。
―――今は、いつで、自分は何故、ここに寝ている?
その問いの答えを探すように動かしていた眼球が、ふと壁の一点で止まる。上部に千切られた紙が僅かに残った日めくりカレンダー。紙に記された日付は自分が覚えている日付よりも随分と先へ進んでいる。

(私はずっと、眠っていた…?)

視線を落とし、右手に厚く巻かれた真白の包帯をじっと見つめる。腰から下はシーツで隠れていて見えないが、恐らく右足も同じ状態にあるのだろう。
あの空間でリーと出会う以前の最後の記憶。我愛羅の操る砂に手足を潰されて、リイは意識を失った。

(じゃあ、あれは夢の中での出来事…?)

リーを抱き締めた両腕の感触も、そっと触れた涙の温度も、たった今の出来事のように覚えているというのに、まるで全ては幻の中の出来事だったとでもいうように、包帯の下の手足はずっしりと重く、自由には動かない。
これが、現実。自嘲するように笑みを浮かべたリイは、左手でシーツを握り締める。

“ロック・リイ”であるという事の代償。大切なものを守る為に、リーが、リイが、受け入れた運命。その重さが、実感を伴ってリイの手足に伸し掛かる。

『―――だったら、自分(わたし)を信じて。リー、大丈夫です。私はきっと―――やってみせますから』

固く目をつむったリイは、ゆるやかに頭を振った。

(自分の言葉を疑うな。私はできる。いいや…、必ずやらなければならない。私がここに、存在する限り)

あの邂逅が夢だったのか、現だったのか、そんな事はもうどうでもいい。
リーが言った事が本当なら、彼の存在を証明させる手立てなどリイには無いし、例えあれが眠っていたリイが作り出した幻だったのだとしても、己がやるべき事は変わらない。
リイは目を閉じて、己の"使命"を頭の中で反芻させる。

ロック・リーの願い。
そして己自身の持つ願い。

ネジを、ガイを、大切な人を失う未来を変える―――。

その隣に在ることの出来る未来を、戦い、勝ち取る。

例えそれが、険しく苦しい道程をたった一人、歩まなければならないのだとしても、リイは、それを成す為にこの世界に生み出された。
それがリーの願いで、リイはそれを叶える為の力を持ってここに居る。

―――ならば、腹は決まったも同然だ。

動かない手足を引き摺り、地べたを這いつくばってでも、リイは進まなければならない。決して立ち止まることなく、望む未来を掴み取る、その時まで。


(私は、"ロック・リイ"なのだから)


どんな困難が訪れようとも、すべて乗り越えて見せる。
―――必ず。

リイは奥歯を噛みしめると、枕元に置いてあったナースコールを手繰り寄せ、そのスイッチを強く押し込んだ。



*



三代目火影が亡くなってから、もう随分と日が経つ。

長きに渡って里を支え、忍達の精神的支柱ともなっていたその存在の喪失は、木ノ葉の里に住まう人々の心に深い傷跡を残す結果となった。
先達ての木ノ葉崩しの一件以来、指令系統に大きな打撃を受けた木ノ葉の混乱は未だに収束の気配を見せる事なく続いており、この混乱に乗じて木ノ葉の里をどうこうしてやろうという他国の忍も少なくない。
アカデミーの門には当面の休校を知らせる張り紙が風に揺れ、普段は教職に就いている中忍までもが里内外での警備や諜報の任務に駆り出されている状態だ。

リイとてそれは重々に承知しているのか、リイが目を覚ましたという連絡を受け、見舞いに来たテンテンとネジが、リイが眠っている間に三代目火影の葬儀が里を上げて行われた事、ガイが任務で不在である事を伝えても、いつものような我儘は言わず、ただ「そうですか」と静かに呟いたのみだった。

「珍しいな、お前がガイに会いたいと駄々を捏ねないとは」

意識を取り戻してからもう一週間も経つというのに、その間リイが一度もガイの名を口にしないとは珍しい。そろそろ槍が降る頃か、と冗談めかしたネジの何気ない一言に、リイは僅かに苦笑してみせる。

「私だって里の現状くらい理解しているつもりですよ。だいたい駄々を捏ねるって、私を何歳だと思ってるんですか」

「中忍試験中に“五日もガイ先生に会えないなんて”云々言っていたのはどこのどいつだ」

じっとりとした目でリイを見るネジに、リイは乾いた笑いを漏らした。そういえばそんな事もあったかもしれない。

(ガイ先生、か…)

ふと最後にガイと会ったときの、あの心配そうな表情を思い出して、リイの顔から笑顔が消える。
眉尻を下げて視線を動かせば、そこには相変わらず包帯を巻かれたままの手があった。

「…正直に言うと、先生が任務に出ていると聞いてほっとしたんです。ガイ先生にこんな姿は見せたくないですし、何より私はガイ先生の笑っている顔が好きですから、…悲しそうな顔だけは、見たくないんですよ」

ガイは、リイの暗部入りを認めてしまったことを―――リイを危険に晒してしまった事を、後悔している様子だった。
そんなガイが、リイが手足の自由を失ってしまった事を知れば―――いや、恐らくもう知らされているだろうが―――それを気に病んでしまうのは想像に難くない。
例えこの怪我が我愛羅によって負わされたものだとしても、ガイはきっと己を責めてしまうだろう。
それが分かっているからこそ、リイは、自分が原因でガイが苦しむ姿を見たくはなかった。
悲しげに微笑んだリイを見て、ネジとテンテンは複雑な表情を浮かべ、唇を引き結ぶ。

―――リイは、知っているのだ。己の手足が、その体が負ったダメージが、どれほど深刻なものであるのかを。最早忍として生きていく事はできないと、医者から宣告されているという事を。すべてを承知の上で、こんな表情を浮かべているのだ。
テンテンはそんなリイに掛ける言葉が見つからず、力なく瞼を伏せた。
どんな励ましの言葉も、慰めも、今のリイには何の意味も持たない。
その手が、足が、もう以前と同じように動くことはないと悟った時、リイは一体どんな気持ちでそれを受け止めたのだろうか。
リイが居ない演習場で、やり場のない怒りを丸太相手にぶつけ、己があの時首を縦に振りさえしなければと後悔に苛まれるガイの姿を見て、ネジとテンテンもまたやるせない気持ちで一杯になっていた。
他でもないガイの為に、例え忍術や幻術が使えなくても立派な忍になれるのだという事を己が証明してみせる、そう言って人一倍の努力を重ねてきたリイ。
いつかガイの隣に立って、その背を守る為に戦うのだと、白い肌を傷だらけにしながらどんなにつらい修行でも歯を食いしばって耐えてきたリイにとって、それはあまりにも惨い宣告だった。
ネジは膝の上に置いた拳をきつく握りしめ、テンテンは絡めた両手の指をきゅっと結ぶ。

―――ああ、せめて医療忍術の天才と謳われた、あの伝説の三忍の一人である綱手様が今ここに居たら!

「リイ…」

病室の中にしんみりとした空気が漂う。
リイはそれに気付き、慌てて笑顔を取り繕うと、そんな空気を振り払う為に左手でシーツの上を小さくパン、と叩いた。

「ごめんなさい、変な空気にしてしまいましたね。…ああ、そうだ、時にテンテン、つかぬことをお聞きしますが、ナルト君が今どうしているかとかご存知ですか?」

「え?ナルト?」

唐突にリイの口から予想していなかった人物の名を聞き、テンテンは首を傾げる。
何故ここでナルトが出てくるのか。不思議には思ったものの、どこに居ても目立つ彼の動向は意識していなくとも耳に入って来るので、テンテンは素直にその質問に答える。

「ナルトなら確か、あの伝説の三忍の一人の自来也様と修行を見てもらうとかで、里を出たって聞いたけど」

「自来也様と…。…そうですか」

リイはテンテンの言葉に考え込むような表情を浮かべ、しばらく顎に手を当てたまま動きを止めた。

(修行…、自来也…。ということはもう暁とは接触した?となればその次は大蛇丸と綱手が出て三竦みの…、そして五代目火影の就任…)

そこまで考えて、リイはハッと何かを思い出したかのように大きく目を見開く。

「そうだ、そうだった…!」

リイの小さな呟きに、ネジとテンテンは思わず顔を見合わせた。
いきなり何だ、という訝し気な二つの視線がリイへと向けられるが、リイはそれを気にする様子もなく、目が合ったネジの肩をがっしりと掴み、鬼気迫る表情で詰め寄った。

「ネジ、修行です!!」

「「は?」」

言うや否や、リイは腕に繋がっていた点滴の細い管を掴み、迷うことなく一気に引き抜いた。
思わず目を点にするネジとテンテンを尻目に、付着した僅かな血液と薬液の滴る針先をぽいっと放り投げたリイは、そのままベッドを飛び降りる。

「ちょっ、ちょっとリイなにやって…」

「さあネジ!!こんな所で油を売っている場合ではありません!修行です修行!中庭へ行きますよ!!」

ベッドの横に立てかけてあった松葉杖をひっつかみ、立ち上がったリイは、戸惑うネジの腕を力強く引いた。とても怪我をしている足を引き摺っているとは思えないスピードで病室を出ていくリイに、ネジは「お、おいリイ、ちょっ、いきなり何なんだ一体ー!?」と叫びながら引き摺られていく。
その一連の行動があまりにも素早いものだった為、テンテンは中腰を浮かせ、制止の為に伸ばした右手を宙に浮かせたまま、呆気にとられた様子でその背を見送る事しかできなかった。
開けっ放しのドアから廊下に反響するネジの声が遠ざかっていく。

数度瞬きをしたテンテンは我に返ると、頭を振って椅子から立ち上がった。


「お…っ、置いて行かないでよー!?」


先程の騒がしさからは一転、静かになった病室に、慌てて二人の後を追うテンテンの叫びが尾を引きながら残った。



*



入院患者たちの数少ない憩いの場として綺麗に整えられた中庭には、燦々と日の光が射し込んでいる。
その丁度中央、軽い運動スペースとして開けた場所になっている空間でリイは立ち止まり、半ば引き摺りながら連れてきたネジをぽいっと放った。
バランスを崩したネジの「何をする!」という抗議をサラッと流したリイは、降り注ぐ陽光を一身に浴びながら静かに空を仰ぐ。柔らかく吹き抜けた風に髪が揺れ、リイは久々に消毒液の匂いがしない空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
二、三度深呼吸を繰り返し、落ち着きを取り戻したリイは、胸元を抑えながら呆れたように呟く。

「私とした事が…あんなに大事なことを忘れていただなんて」

「―――…、ちょっとリイ、待ってってば!もー、あんたホントに怪我人?歩くの早すぎよ!」

後ろから追いついたテンテンが僅かに息を切らしながらリイに歩み寄る。だがリイは振り返ることもせず、小さく頭を振った。

「リイってば、聞いてる?」

微動だにしないリイの肩を掴もうと、手を伸ばしたテンテンの指先が届く寸前、リイは短くネジの名を呼ぶ。
思わず動きを止めたテンテンを横目に、佇まいを直したネジが口をへの字に曲げながら不機嫌そうに「なんだ」と返事をすれば、リイは俯き、そのまま「前に来てください」と己の正面を指さした。
一体なんだというのだろう。片眉を下げたテンテンに、ネジは肩を竦めてみせる。

「ここに」

ネジはリイに言われるがまま、リイの元へと歩み寄った。正面から向き合ったリイは、俯きながら左手をきゅっと握る。

「―――ネジ、あなたには“鉄塊”を覚えてもらいます」

「ハァ?」

唐突なリイの宣言に、ネジは「何を言ってるんだコイツは」という表情を隠しもしなかった。
そんなネジの態度が癪に障ったのか、ぱっと顔を上げたリイは険しい顔のまま「ハア?じゃありませんよ」とネジを睨みつける。

「テンテンが剃を覚えられたんです。まさか、天才と謳われるネジが鉄塊を習得できませんだなんて言いませんよね?」

「ま、待て。それ以前にだな、何故オレが鉄塊を習得しなければならない」

しかも何故今。

ネジの言葉に、抱えていた松葉杖を器用に脇に挟んだリイは、憮然とした態度で腕組みをし、仁王立ちになった。
形の良い眉の尾がきりりと持ち上がる。


「いいからつべこべ言わずに、やれ」


有無を言わせぬ強い口調。間髪入れずに拳を構えたリイに、ネジは頬をひくつかせながら一歩後ずさった。
どうやら説明をするつもりはないらしい。リイのこうした突然の行動に付き合わされるのは初めてではないが、それにしたって、何故今、鉄塊なのか。
ネジの頬を一筋の汗が滑り落ちる。
実はネジは、こうした直接的な防御技があまり得意ではない。というよりも、柔拳という技の特性上、ネジの修行には外面を鍛えるメニューは殆ど組み込まれていないのだ。攻撃は通常かわすかいなすか…、最悪絶対防御技である回天を使ってガードをするので、正面から受け止めるという事はほぼ無いに等しい。
だが鉄塊は、その攻撃を受け止める為の技だ。もちろん使えれば使えるに越した事はないが、今のネジには別段必要性も感じない。

その時ふと、ネジはテンテンが『中忍試験で必ず役に立つから』、とリイに半ば無理矢理剃を教え込まれたのだとぼやいていたのを思い出した。
確かにあの時、テンテンが剃を使えなければ、相手の圧倒的な風のスピードに圧され、試合はものの数秒もしないうちに決着がついていただろう。あれが使えたからこそ、テンテンはあれだけ高いレベルの風遁を使う忍相手にほぼ体術のみで善戦する事ができたのだ。

それを考慮すれば、リイには何かリイなりの考えがある…のかもしれない。
が、ただ一つ言えるのは―――。

「…一応聞いておくが…拒否権は?」

バキリ、とリイの指が鳴る。


「無いにきまってるでしょう」


―――テンテンが、止める間もなかった。
握り締めた左の拳を目にも留まらぬ速さでネジ目掛けて振り抜き、無防備なその腹を真っ直ぐに打ち貫く。
それは普段のリイの全力の拳からすれば、十分に目で追う事の出来る速度―――しかし、とても怪我人の動きとは思えない程、俊敏な動きだった。

まさか利き腕と利き足を包帯で覆っているような人間が、ここまで本気の攻撃を仕掛けて来るとは誰も思わないだろう。例に漏れず、ろくな受け身を取る事も出来ず、身体をくの字に曲げながら吹っ飛んだネジの姿を、テンテンは見開いた目で追うことしかできず、ネジは病院の壁に強かに背を打ち付けながら倒れ込む。

流石に気絶こそしなかったが、割とモロにダメージを負ったネジは殴られた腹部を抱え、咳き込みながらなんとか上体を起こした。
その頭上に、さっと差す影。
―――恐る恐る見上げれば、そこにはとてもイイ笑顔を浮かべたリイが立っていた。

…いや、これは笑っているのではない。怒っているのだ。それも、相当。
逆光を背負いながらネジを見下ろすその顔を見た瞬間、ネジの背に何とも言えない悪寒が走る。

始めてではないこの感じ。そう、これはリイと出会った直後の、あの感覚に似ている。
もっと分かりやすく言えば―――…とてつもなくイヤな予感がする!!

「ネジ」

頬をヒクつかせるネジの前で肩を回してコキリと音を響かせたリイは、倒れ込んだままのネジの襟首を掴むとそのまま軽々とその身体を持ち上げてみせた。
くわっとリイの目が開き、思わずネジはびくりと身を固まらせる。

「いくら油断していたからといって、怪我人の、それも利き腕じゃない方の拳一つで吹っ飛ぶなんて、信じられない。ネジ、あなたそれでも忍者ですか!?」

笑顔を消して詰め寄るリイに、「いやお前あれはいきなり反則だろう」とネジが抗議の声を上げようとすれば、リイはぴしゃりと「言い訳しない!」と言い放つ。
ふん、と鼻を鳴らしたリイは、ぱっとネジの襟から手を離すと大げさにため息を吐いた。

「…なってない。全然、全ッ然なってない。何が天才ですか、絶対防御ですか。全然防御できてないじゃないですか!この程度で同期ナンバーワンの実力を名乗るだなんて何を考えているんですか?天才の名が聞いて呆れますね。そんなんだから絶対防御とか言ってる割りに胸とか腹とかに穴あけられて挙句真っ先に死ぬんですよ!?

「いや何の話だよ!?」

嘆くリイに、まったく身に覚えの無い事すぎて困り果てたネジはどうすればいいか分からず思わず二の足を踏む。
チッと舌打ちをしたリイは、腕を組んでそっぽを向きながらやれやれと首を振った。

「何が“お前に天才だと言われたからだ…”ですか!激辛カレーも食べられない癖にいっちょ前にカッコだけはつけたがるんですから、まったくもう!そんな理由で永遠のライバル失うこっちの身にもなって下さいよね!」

「いやだから本当に何の話だ…!それに、それを言うならお前だってカレーは甘口派だろうが…」

ネジの指摘ににむっとした表情を浮かべたリイは、ネジから一歩下がって距離を取ると、「と・に・か・く!」と叫び、人差指をビシッとネジの鼻先に突きつける。

「これで分かったでしょう。あなたの防御力の無さは早急になんとかしなければならないんです!ナルト君がこの里に帰ってくる前に、なんとしてでもネジには鉄塊を覚えてもらいます」

「なんでここでナルト?」

ネジの疑問を無視して、リイは「…テンテン!」と後ろで固まっていたテンテンの名を呼んだ。
その凄まじい剣幕に、傍から見ているだけだったにも関わらず及び腰になっていたテンテンは、即座に「ハイ!」と返事をすると背筋を伸ばし、そのままリイの隣に駆け寄る。

「武器口寄せです。まずはクナイで切れない程度の強度はつけてもらいます」

「えええいきなりレベル高いだろオイ!?」

「大丈夫、天才ならできる!」

「お前天才がなんでもできると思うなよ!?」

焦るネジにぐっ親指を立てるリイ。
とにかく努力あるのみ、思い一念岩をも通す、と根がロック・リーと同じ考え方をしているリイは、こういう所でとてもざっくりしているのである。
いやいやいや無理だろ、と青い顔で逃げ腰になるネジを隅に追い詰めるリイを、ガイ班のツッコミ担当、テンテンが慌てて止める。

「無茶よリイ!あんなの出来るのあんたぐらいしか居ないって何度言えば分かるのよ!」

―――ネジはこの時テンテンが天使に見えた。いいぞテンテンもっと言ってやれ!
そんなテンテンの言葉に、考え込むように顎に手を宛てたリイは、ポン、と手を叩くとテンテンに向き直り、にっこりとした笑顔を浮かべる。

「テンテン、退院したら甘栗甘のゴマ団子好きなだけ奢ります」

「オーケーリイ!操具メドレーで行きましょう」

「テンテン!?」

変わり身の早いテンテンがサッと腰の忍具入れから巻物を取り出す。
こうなればもう、ネジに逃げ場はない。
ネジはこの場に居ないガイの姿を思い浮かべながら、心の中で滝のような涙を流した。

―――ガイ先生いつも濃ゆいとかうざいとか暑苦しいとか思ってホントすみませんでした!反省しますからこの二人を止めて!頼むから!お願いだから!

…というネジの必死の祈りが届くはずもなく。
どこか遠くでガイがくしゃみをすると同時に、テンテンの巻物の紐がパラリと解かれる。


「さあネジ、本気で鉄塊を習得しなければ死んでしまいますよ?」


悪魔のように妖艶に笑うリイの顔と、巻物に封じられた忍具の文字が見えた瞬間、ネジは走馬灯を見た、気がした。







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