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タン、と地を蹴ったリイが、剃の高速移動によって我愛羅の背後に回り込む。
咄嗟の事に反応が間に合わなかった我愛羅は、カッと目を開いて背後を振り返った。

「―――!!」

「十指銃!!」

猛スピードで合わせた掌から突き出された十の指銃が、寸前でガードに入った砂の盾を深く抉った。衝撃に砂が飛び散る。
頬に当たる寸前で止められたその指に、思わず我愛羅の頬に汗が滲んだ。

(速い…!)

先程とは比べ物にならないそのスピードに、カカシの目が細められる。あとコンマ一秒でも砂の反応が遅れていれば、リイの指は我愛羅の顔を貫通していただろう。
次々と繰り出される技に翻弄され、砂が右往左往する。

「惜しい…」

拳を握りしめたサクラに、ガイは得意げな笑みを浮かべた。

「あの子のスピードは、我が班の中でも随一を誇る。本気を出したあの子には、天才と名高いネジですらついてはいけん。忍術や幻術が使えないからこそ、体術にすべての時間を費やし、それを極めたあの子は…」

リイは正面から繰り出された攻撃を防いだ我愛羅の後ろに回り込むと、強烈な拳底を繰り出した。

「虚刀流奥義、鏡花水月!!」

リイの使用する拳法、虚刀流にある七つの奥義の中でも最速のスピードで繰り出される拳に、ガードに入ろうとした砂が吹き飛ばされる。

「まだまだ、虚刀流奥義…」

フッと間髪入れずに上空に飛んだリイが空中でぐるりと一回転する。勢いを付けた踵が、がら空きになった我愛羅に向かって斧のように振り下ろされた。
砂のガードは間に合わない。

「あの子は、体術のスペシャリストだ…!」



「落花狼藉!!」



次の瞬間、鈍い音を立てながら、リイの強力な踵落としが決まった。
我愛羅の頭が勢いよくぶれ、頬に一筋の傷が走る。観客席が驚愕の色に染まった。
あれだけ鉄壁のガード技を持つ我愛羅が傷を負ったのだ。特にテマリとカンクロウは、信じられないものを見るような目でリイを見る。

(あの我愛羅が傷を…!)

「さあ、これからです…」

靴底で床を滑りながら後方へ下がったリイは、フラリと揺れた我愛羅を見て、ニヤリと笑った。
顔を上げた我愛羅が、ギロリとリイを睨む。


「リイ!爆発だ―――!!」


ガイの声援に、リイは微笑み返すと、音もなく消えた。
我愛羅は砂の鎧を纏っている。先ほど頬に入った傷も、中身ではなくその砂の盾に入った亀裂だ。本を読んで我愛羅の術を知っていたリイは、空中で構えを取ると溜めの動作を取った。
リイが己の使う体術に『虚刀流』を選んだ理由。そして、この時の為に真っ先に習得した奥義。
―――それを使う時が来たようだ。

「こっちですよ!」

残像を残す程のスピードで我愛羅を翻弄しながら体を捻ったリイは、砂のガードを掻い潜って拳を突き出す。
リイは奥歯をぐっと噛み、拳に力を入れた。硬いものにぶつかる感触。



「虚刀流、奥義―――柳緑花紅!!」



(―――直撃!!)

我愛羅の鳩尾にダイレクトに入った拳が、その体を思い切り殴り飛ばす。衝撃が背中を突き抜けた。息を詰まらせた我愛羅の口から声にならない呻きが漏れる。
砂に受け止められつつ、床にバウンドした我愛羅を見て、サクラは顔に喜色を滲ませながら手を叩いた。

「すごい…!砂のガードが追い付いてない…!」

「攻撃が速すぎて、目で追う事すらほとんどできないよ…」

チョウジが震える声で呟く。
どうやら音忍相手に一戦交えた時のアレは、本気ではなかったらしい。シカマルはごくりと息を飲んだ。

ふら、と影が揺れる。砂に守られながら床に転がっていた我愛羅は、荒い呼吸を繰り返しつつ、ゆっくりと立ち上がった。
ゆらり、と幽鬼のように揺れたその姿に、カンクロウとテマリの頬に汗が伝う。
マズイ、あれは…。

「ヤバイな…」

「ああ、ヤベーな!アイツってば、けっこー重たいの喰らったってばよ!」

「…そのヤバイじゃねーよ…」

無邪気にはしゃぐナルトに、カンクロウが呟く。立ち上がった我愛羅の頬に亀裂が走った。
パラパラと崩れ始める表皮。…砂の、鎧。
唇を歪め、猟奇的な笑みを浮かべた我愛羅を見た観客たちの背に冷たいものが伝う。

その姿は、まるでバケモノ。

「体中に砂の鎧を纏っていたとは…。まるで無傷か…?」

カカシの眉間に皺が寄る。しかし、動揺する周囲とは裏腹に、リイはニヤッと笑った。
唐突に我愛羅の表情が急変する。

バッと抑えた口元から、鮮血が散った。


「「「「!?」」」」


突然血を吐いた我愛羅に、一同は目を見開く。
何が起こったのかまるで分からないといった表情で口を覆った我愛羅の指の間から、粘つく赤が滴り落ち、足元の砂を黒く染めた。

「な、なに…!?さっきの攻撃は、砂の鎧でガードしたんじゃ…」

驚くサクラが手摺を掴んで身を乗り出す。
どういうことだ、と動揺を隠せないカカシを振り返って、ガイは口角を上げ、不敵に笑った。

「四の奥義、柳緑花紅…。筋肉や防具など、間に挟んだものには損傷を与えず、好きな位置にだけ衝撃を伝える技だ。ベースはネジの柔拳だが、経絡系を突く柔拳とは違い、衝撃を直接内臓にぶつける鎧通しの技…あの技の前にはどんな堅固な鎧も、意味を成さん」

咳が収まり、我愛羅の手がだらりと垂れる。
もう片方の手で顎を汚した血を拭い、憎々しげにその赤を睨む我愛羅に、ナルトはごくりと息を飲んだ。

「マズいじゃん、我愛羅が血を…。今のあいつに捕まったら…」

瞳孔が開ききり、血走った眼がリイを捉える。普段は冷静で礼節を弁え、無表情を貫き通している我愛羅の興奮に歪んだ顔にカンクロウは背筋を泡立たせた。

「弄ばれて…殺されるぞ」

我愛羅が何事かを叫び、血を吐き捨てた。
それと同時に印が結ばれ、蠢いた砂がリイに向かって一斉に襲い掛かる。

(我愛羅の絶対防御である砂の鎧が通用しない相手…、やるじゃん、あのリイって奴…。だが、我愛羅は天才だ。ただの体術使いに、勝てる相手じゃない…)

鋭い刃となって降ってきた砂を咄嗟に避けたリイは、月歩によって空中を跳んだ。

「空気を蹴って…!」

とても人間技とは思えない程凄まじい脚力に、サクラは口を開けて宙を見上げる。追い縋る砂をするりと潜り抜け、凄まじいスピードで宙を駆けあがったリイは、腰をぐっと捻り、追ってきた砂に向かって蹴りを繰り出した。

「嵐脚、白雷!!」

電光石火、雷の如く降り注いだ衝撃に砂が弾き返され、砂煙が視界を覆う。
先程の攻撃により、オートで我愛羅を守る砂の盾が消えた。
さあ、ここからが本番だ。

「…来い…!!」

霞む視界の向こうから聞こえてきた地を這うような低い声に、リイはキュッと唇を結ぶ。



「―――お望み通りに。ただしその頃には、あなたは八つ裂きになっているでしょうけど!」



リイは剃によって我愛羅の正面に飛び込み、拳を握りしめると、勢いよくその拳底を我愛羅に向かって放った。







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