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(私が未来の風影相手にどれだけ戦えるのか―――)

駆け出したリイは、腕を組んで待ち構える我愛羅を見据える。
向かい来るリイに眉ひとつ動かす事のないその様子に、リイは目を細めた。左右の足運びによって床を二度蹴り、勢いをつけた両腕を振り下ろす。
その自慢の砂のスピードが如何程のものか―――…。

「虚刀流、『雛罌粟』から『沈丁花』まで、打撃技混成接続―――」

瞬きする間もなく繰り出された、実に二百七十二回の手刀、打撃技の連撃。残像すら霞むその速さに、観客たちは息を飲む。
しかし攻撃が我愛羅にあたる寸前、瓢箪の中から飛び出した砂が、すべての打撃を受け止めた。

(…流石に硬い…!!)

手刀が砂の盾にめり込む度に、鈍い音を立てながら砂が飛び散る。

「砂…!?あの連撃をガードするなんて…」

サクラはリイの攻撃を阻む砂の動きを目で追いながら、驚きで口を開けた。
あらゆる角度から打ち込まれる攻撃を、臨機応変に形を変えながらガードする砂。両者とも、一歩も引かない攻防戦だ。

「リイのあの動きについてくるとは…」

「なかなかやるな…」

ガイとネジの間に動揺が走る。
リイの攻撃スピードはガイ班の中でも最速を誇る。あれについていくのはネジやガイですら難しいというのに、ただでさえ重量のある砂をそのスピードに合わせて操るとは…。

あの男、かなり出来る。

二人は息を飲んで、我愛羅とリイの攻防戦を見守った。

(やはり、この程度の技じゃ通用しないか…)

砂がザワリと音を立てる。我愛羅の周囲を薙ぐようにして動いたそれに、チッと舌打ちしたリイは腕を引くと、大きく後ろに飛び、空中を一回転して後方に退避した。靴底に付着した砂が、ザリ、という音を立てる。

「あの速いリイさんの攻撃が全然効かないなんて…」

「全然攻撃が通じねーってばよ…」

腕組みをしたままピクリとも動かない我愛羅の周囲を、砂が囲む。リイが訝しげに眉を顰める様を見たサクラとナルトは、固唾を呑んで対峙する二人を見た。
隣に立つカンクロウも共にそれを観戦しながら、あれ程のスピードを以てしても突破する事の出来ない弟の砂の盾に、やはりか、と目を細める。

「我愛羅にはどんな物理的攻撃も通用しねえ。アイツの意志に関係なく、砂が盾になるからな…。だから今まで、誰一人としていねーんだ」

我愛羅を傷つけた奴なんてな、というカンクロウの言葉に、ナルトは喉を上下させた。
二次試験を突破してきたものが皆、大なり小なり傷を負っている中、服に汚れをつける事すらなく佇んでいた我愛羅の姿を思い返す。

「物理攻撃が効かない…。それじゃあ、アイツってば…」

「っどうしてリイさんは体術ばかりなの!?あれじゃ接近戦は厳しいわ…!少しは忍術で距離を置く戦いをしないと…!」

サクラは手摺を掴むと、隣で試合を見るガイを振り返った。厳しい顔でリイを見守るガイは、サクラの言葉を聞いて静かに口を開く。


「リイは忍術を使わないんじゃない。…使えないんだ」


ガイの言葉に、サクラは目を見開いた。
忍術が使えない。そんな訳があるか。サクラは半信半疑でガイを睨む。忍術が使えない忍など、聞いたこともない。

「そんな…それじゃあどうやってこんな所まで残って…」

二次試験を勝ち抜いて来た者は、それぞれが相応の実力者だ。二次試験の内容は、試験内容、コースプログラムを含め、下忍にはかなり厳しいものだった。それを勝ち抜いて来たのだから、この場に居るメンバーはそれぞれが運だけでない、相応の実力を持っていると考えていい。
だというのに、忍術が使えないという事は、それらをすべて忍術なしで切り抜けてきたという事になる。
そんな事があり得るはずがない。
殆どの下忍がそれぞれ己の忍術を駆使しながら死に物狂いになってクリアしたあの死の森を、どうやって忍術なしで切り抜ける事が出来たというのか。

「…あの子は少し、特殊でな…。忍術や幻術のスキルはほぼゼロ…、特出した体術の才能と努力によって忍になったが、忍術も幻術も使えない忍者なんてそうはいない…」

「忍術も、幻術も…、うそでしょ…」

サクラは信じられない思いのまま、戦闘を再開した我愛羅とリイの方へ視線を向けた。
今度は攻め手に出たのか、先ほどまで防御を務めていた砂が、リイの方へと向かって一直線に伸びる。
足を捕まえようと断続的に襲い掛かる砂を難なく避けたリイは、大きく跳びあがると空中を回転しながら、会場の壁に作られた腕のオブジェに着地した。

(あの砂、思ったよりも速いな…。しかも、形が流動する砂だからこそ、貫通するのが難しい。もっとスピードがあれば、攻撃を届かせることが出来るかもしれないけど…)

リイはちらりと足元を見る。そして軽く頭を振ると、きゅ、と唇を結び、試合開始時から一歩も動いていない我愛羅を見据えた。

(いや、攻撃が届いたところで、決定打を与えられなければ…。しかし、こうしていてもイタチごっこだ。どうする…)

つう、とリイの頬を汗が伝った。
ガイはそんなリイの姿を見て、軽く目を閉じ、深呼吸をする。


「忍術も幻術も使えない。―――だからこそ、勝てる」


その言葉に、ガイを振り返ったサクラとカカシを一瞥し、ガイは微笑みを浮かべると、スッと親指を立てた。


「リイ!外せ―――!!」


聞こえてきたガイの声に、リイはハッと顔を上げる。
何事かと眉を顰め、訝しげな顔でガイを睨む我愛羅をちらりと見て、リイは困ったような顔になった。

「ガイ先生…、しかし、そうすると…」

「構わん!お前の本当の実力を、見せてやれ!!」

ガイが親指を突き出す。
そんなガイの姿に、リイは目を伏せ、数秒考え込んだ。やがて考えがまとまったのか、小さく笑うと、そっと足を覆うレッグウォーマーに手をかけ、両足の足首に巻いている重りの留め金を外す。

「そうですね…。攻撃さえ届けば、あとは何とでもなる」

ぱらり、と重りが外れた。リイはそれを両手で持つと、俯きながらすっと立ち上がる。

「重り…?」

サクラの呟きに、ガイはニヤリと笑った。

「あの子は女の子だ…。故に、どうしてもオレやネジに比べて体重が軽く、攻撃の一撃一撃に決定打を持たせる事ができない。だからこそ普段はああして重りを着けて、蹴りの威力を増しているのだ。勿論、普段から重りを着けることによって、常にトレーニングをしている状態にもなる。だからこそ…」

リイはガイに頷くと、パッと両手を放し、重りを落とした。

(くだらねえ…)

(フン…少しの重りを外した所で、我愛羅の砂についていけるわけがな…)

カンクロウとテマリが嘲笑を浮かべた次の瞬間、会場内に凄まじい轟音が響き渡り、リイの足元から土煙がもうもうと立ち上った。
床を粉砕する程の重量を持った重りに一同は目を見開き、カカシは思わず口を覆う。

「や、やりすぎでしょ、ガイ…。女の子になんてことさせてんの…」

「重りを外したあの子には、何人たりとも追いつけん!」

サッと二本指を立てたガイが、笑みを深くして勢いよく前方を指した。



「行け、リイ―――!!ガイ班の最速を、見せてやれ!」



リイは顔を上げると、返事の代わりにスウッと息を吸い込み、その場から掻き消えた。







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