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「はっきり言って才能ないよ、君は…。そういう奴はもっと努力しないとダメでしょ!弱い君がボクらをナメちゃいけないなぁ!!」

二重に仕掛けたトラップをいとも簡単に突破し、襲い来る音忍達。
咄嗟の事にすぐに反応する事の出来なかったサクラの目に涙が浮かぶ。動けない、二人を守れない、死ぬ、怖い!!
覚悟もできないまま、さまざまな感情がサクラの内を駆け巡る。

―――死にたくない!

サクラは両腕で体を庇うようにして、その恐怖から逃れようと強く目を閉じた。
強い風が吹き抜ける。



「木ノ葉旋風!!」



次の瞬間響いた鈍い打撃音に、サクラは驚いて目を見開いた。
眼前に飛び出した緑色の影。白いマフラーが風に踊る。
襲い来る音の忍三人を一度に蹴飛ばし、後方へと吹っ飛ばしたその影は、サクラの前に軽く着地するとサラリ、と艶のある黒髪を揺らした。

「え…!?」

(この人は…)

現れた予想外の人物の姿に、サクラは思わず表情を呆けさせる。

「ダメですね。あなた達こそもっと努力をしないと、私には勝てませんよ」

肩に乗ったリスがひょこりと顔を出す。
不敵な笑みを浮かべたリイは、音忍に向けてスッと構えを取った。

「何者です…!?」

突然の乱入者に驚きを隠せないドスがリイを鋭い目で睨み付ける。
その殺気の籠った視線を受けて、リイはますます笑みを深くした。


「“木の葉の美しき碧い野獣”…ロック・リイと申します。以後、お見知りおきを」


口角を吊りあげて、リイは挑発するように指を動かす。
その姿に、ドスは数秒考え込み、やがて持っていた巻物を後ろのザクに放るとサスケを始末するように命じた。

「こいつは僕がやる」

ドスも向かい合うリイと同じく構えを取り、臨戦態勢になる。
緊張の高まる空気の中で、サクラはやっとの思いで口を開いた。

「どうして、あなたが…!?」

「たまたま通りかかりましてね。この子が教えてくれたんですよ」

リイは肩に乗っていたリスをそっと降ろし、指でつついてこの場から去るよう促した。
リスはちょこちょこと数歩地面を走った後、リイを振り返り、そしてまた走り出してサクラの後ろへと回り込む。どうやら野生の本能で、その場所が一番安全であると判断したらしい。

「でも、なんで…」

「かわいい後輩のピンチです。先輩として、同じ里の忍として、助けなければと思いましてね」

それに女の子が傷ついている所を黙って見過ごすわけにはいきません、とリイは首だけでサクラの方を向き、ウインクをした。
理由はどうであれ、リイのお蔭で後ろの二人が助かった。サクラの目に安堵の涙が浮かぶ。

「…ありがとうございます。助かりました…」

「いいえ、まだですよ…気を抜かないで下さい。私はあなたを守りますが、あなたは後ろの二人を守らなければならない。その状態を見る限りとても戦えるとは思えませんが…」

「何をごちゃごちゃと…一人増えた所で変わらない、君達はここで死ぬんだよ!!」

痺れを切らしたドスがリイに向かって走り出した。リイは表情を一変させ、険しい目で向かい来る敵を見据える。
咄嗟にクナイを手にしたサクラが、ドスに向かってそれを投げた。
ドスはそれをジャンプして難なく避けると、そのままリイへの攻撃の態勢へ移る。

リイは拳を握りしめると、その手を一気に地中へと突っ込んだ。
まるでくじ引きの紐を引っ張るかのようにあっさりと、己の体よりも何倍も大きい木の根を引き上げ、盾とする。

(この人…強い!!)

驚くサクラを尻目に、ドスは音波によって粉砕された木の根の破片を避けて後方へと飛んだ。

「ふうん…ちょっとは遊べそうですね…」

体制を立て直し、再び攻撃の構えを取る。
リイはドスの言葉に、くっと笑った。


「ええ、遊んであげましょう。ただしその頃には、あなたは八つ裂きになっているでしょうけど


リイはサッと構えを変えて、駆け出した。

(来る!!)

ドスは向けられた鋭い殺気に思わず身構えた。
走り出したリイは右手を左腰の下へと向ける。そして勢いをつけてその手を上へと払った。

「虚刀流、雛罌粟!!」

手刀による斬撃。
その人間離れした技によって、間一髪直撃を避けたドスの服に切り込みが入る。

「思い切り接近戦タイプか…それならこれはどうだ!」

ドスが右腕を振り上げた。
あれは確か、音波による攻撃で対象の感覚器を破壊する技。目に見えない音波、それもチャクラの練りこまれた音波は相手の耳へ確実に到達するというのだから性質が悪い。リイは眉を顰め、地面を強く蹴り上げた。

「させませんよ、剃!!」

ひゅっ、とリイの姿が掻き消える。術を発動させたような予備動作はなかった。突然視界から消えたリイに「何!?」とドスは目を見開く。

(―――上か!!)

射した影に、ドスは慌てて上空を仰ぎ見た。

「嵐脚、乱!!」

蹴りによって巻き起こされる鎌風が、上から幾重もの刃になってドスへと放たれる。
とてもすべてはガードしきれない。ドスは咄嗟に右手の装備でいくつかの斬撃を弾こうとした。

「なっ…!」

右手をかすった斬撃。それによって、右手の装備にひびが入る。

(ウソだろ、これは打撃用の武器…盾として使用できる強度があるんだぞ…!?)

「ぐあっ…!!」

相殺しきれなかった攻撃に、ドスの体が吹っ飛ぶ。
直撃を避けてこの威力…!包帯に覆われたドスの頬に汗が伝った。

「…なるほど、体術使いといっても、ひとえに接近戦タイプ…という訳でもないようだ」

すた、と着地したリイが焦りを見せるドスに不敵な笑みを浮かべる。

「私の蹴りは飛び道具より強いので。それに…あなたの音波と同じで、形が無い分避けたり弾いたりするのは至難の業ですよ」

その言葉に、ドスの顔が驚愕に染まった。
自分は一度も、この武器を使って攻撃をしていない。ネタがバレよう筈もないのに、この女はなぜ、自分の攻撃スタイルを知っている…!?

「さて、遊ぶのはここまでにしましょうか」

固まるドスに、笑みを消したリイが肉薄する。
動揺していたとはいえ、攻撃を受ける瞬間まで反応することすらできなかった。―――早い!
圧倒的なスピードで繰り出された技に、ドスはガードをする事もできない。


「虚刀流―――奥義、鏡花水月!!」


あまりに速く、そして強烈すぎる拳底。それが、がら空きのドスの胴にまともに入った。悲鳴を上げる間もなく、ドスの意識はブツリと強制的に閉ざされる。
自分の体よりも数倍重いであろうドスの体を数メートル先まで吹っ飛ばしたリイは、地面に転がったドスがぴくりとも動かないのを確認して、一連の戦闘を信じられないといった表情で見ていたザクとキンを振り返った。

「で、どうします?まだやりますか?」

その挑発の言葉に、我に返ったザクとキンは逆上する。

「何を…」

「俺達を舐めるな!」

ザクは印を組むと、両手の掌に空いた穴をリイへと向けた。
空気圧、超音波、その両方を操り、岩ですら砕く威力を持つ攻撃―――まともに当たれば、ただではすまない。

「斬空波!!」

「剃!!」


リイの姿が掻き消える。ザクの掌底から放たれた衝撃に周囲の空気が大きく揺れ、リイが居た場所に直撃した空気圧の刃が地面や木を大きく抉り、その攻撃の威力をまざまざと見せつける。

(なんて技…!)

サクラはその威力を目の当たりにして心底ゾッとした。

「くそっ、どこに…」

「ここですよ。―――指銃!!

慌てて辺りを見回すザクの後ろに、影が回り込む。
リイはその背中に指先での突きを繰り出し、肩の肉を大きく抉った。
弾丸よりも強力な刺突。肘を引いて指を引き抜けば、ザクの肩から血が迸る。

「ぐ…っ」

ザクは咄嗟に肩を抑え、飛びのいた。

「こうなりゃ…」

負傷していない方の腕を座り込んでいるサクラの方へと向ける。
まずい。リイは眉を顰め、サクラは目を見開く。後ろに動けない二人を庇っている以上、サクラは避けたくても攻撃を避ける事ができない。
咄嗟に手裏剣を放つが、ザクの技に跳ね返される。サクラは両腕を前にして体を庇おうとした。

「―――鉄塊!!」

間一髪、リイはザクとサクラの間に体を滑り込ませ、空気圧による攻撃を受け止める。
攻撃による直接的なダメージは防いだが、リイの体は衝撃に押されて土煙を上げながら後退した。

「リイさん!!」

立ち上る砂煙にリイの無事を確認できないサクラが思わず叫ぶ。しかしその瞬間、気配の一つが自分の背後に移動している事に気が付いた。
咄嗟に振り返ろうとするが、その前に髪を根元から掴まれ、身動きが取れない状態になる。

「人の心配する前に自分の心配しなよ。にしても、私のよりいい艶してんじゃない…コレ。忍の癖に色気付きやがって」

一瞬のスキをついてサクラの背後に回り込んだキンは、サクラの長い髪を掴み上げると「髪に気を使うヒマがあったら修行しろこのメスブタが」と口汚く罵った。

「チッ…」

砂煙が晴れた先で、リイは舌打ちをした。サクラが人質に取られた以上、こちらも身動きができない。
動きを止めたリイの方を一瞥したザクは、右と左の掌をそれぞれリイとサクラに向けながら「妙な動きをすれば殺す」と脅した。鉄塊、即ち体を鉄と同じ強度まで硬くし、あらゆる物理攻撃をガードする技を持つリイはともかく、身動きの取れないサクラがあの空気圧をまともに食らえば、とてもケガではすまないだろう。

「ザク、この男好きの前で、そのサスケとかいう奴を殺しなよ。こいつにちょっとした余興を見せてやろう」

ザクはニヤリと笑って頷き、リイに向けていた掌をサクラの背後で眠るサスケとナルトの方へと向ける。

「リイさん、私のことはいいからサスケくんとナルトを―――ッ」

「黙れ!動くな」

サクラの頬をキンが殴りつける。短く悲鳴を上げたサクラは、震える手で地面を掻いた。
体に力が入らない。

(私、…また、足手まといにしかなってない…!いつだって守られてるだけで…)

悔しさからあふれ出った涙が、サクラの頬を伝う。
手のひらを土ごと握りしめ、ぐっと歯を食いしばった。

(強くなりたい、二人を守る力が欲しい―――!)

「サクラさん」

それまで黙っていたリイが、不意に口を開いた。
サクラはハッとして顔を上げる。静かに諭すような、けれど力強い声―――。

リイは、凛と背筋を伸ばし、真剣な瞳でサクラを見つめていた。

その目に宿る強い光が、サクラを強く惹きつける。外面の美しさではなく、リイの内に宿る美。性別も美醜も超越して、人を魅せる強さ。
強くあろうとする者の、気高き魂。

「あなたの背中を見せる時がきたようですよ」

さあ、とリイが微笑む。
この時、サクラはリイの『本当の美しさ』に気が付いた。外見に囚われない、魂の美。

その輝きがあるからこそ、この人はこんなにも美しく、強い。

同じくのいちとして、女として、湧き上がる嫉妬心と憧れ。
サクラの震えが止まった。

(強くなりたいんじゃない。―――強く、なる)

右腿のホルスターからクナイを取り出す。それを握りしめて、サクラは強く目を閉じた。
涙は、いつの間にか止まっていた。

「ムダよ!私にそんなものは効かない!」

キンが強くサクラの髪を引く。
サクラはキンを振り返ると、笑った。力強い、決意を込めた笑み。

「何を言ってるの?」



(今度こそは、大切な人たちを―――私が守る!!)



迷いもなく。

サクラはその長い髪を―――クナイで一気に切り離した。







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