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戦の折、市街を焼き払われ、最早抵抗の術を奪われた薩摩は、しかし、天人に抗うことを諦めた訳ではなかった。
見せつけられたその圧倒的な軍事力の差に、今のままでは到底勝ち目はないと悟ったのだ。

とはいえ、薩摩がこの戦争で何も得るものが無かったかといえば、そうではない。薩摩の軍備と火力は、天人達の予想を遙かに上回っていた。
窮鼠猫を噛む。
地球人との戦を草刈り程度と初めから甘く見ていた天人は、その抵抗に痛烈な痛手を食らったのである。まして、市街を焼いたことは、天人の望むところでは無かった。

そもそも彼らが地球に訪れ、強制的に開国を迫ったのは、この国、引いてはこの星の人間達との交易と支配を望んでの事だ。この広い宇宙の中で数多の星々と交易を交わしてきた彼らは、侵略戦争がどれ程に相手の国力を削ぐかを熟知していた。

いや、確かに、始めに戦争をして、望むだけの搾取を行えば、その方が利益は多い。

まさか空の上に宇宙があって、その果てにいくつもの生命体が存在していることなど知らず、海の向こうの国々にすら力及ばないこの国を蹂躙するなど、その火力を持ってすれば赤子の手を捻るよりも簡単な事だ。

しかし、彼らはそうはしなかった。戦争によって得る一時的な利益よりも、傀儡政権による長期的な利潤を狙ったのである。
わざわざ、西洋の進んだ国々よりもこの一歩遅れた国を選んだのも、そういう意図があっての事だ。

そして薩摩は、この大戦によって天人、引いては幕府の中枢に根を張る天導衆の意図を正確に読み取った。―――このままでは、この国は、この星は死ぬ。そう判断した薩摩は、まずは天人達と対等な立場で渡り合えるだけの力が必要だと判断した。
戦争によってさんざ辛酸を舐めさせられた薩摩は、自国が天人と比べてとてつもなく遅れをとっているということを身を以て知り、痛感したのだ。
同じだけの力―――いや、それを上回る力を持ってして、初めて同じ土俵に上がれる。そうでなければ、この国は天人達のゆるやかな搾取によって腐り落ちるだけだ。

―――そして、この時最も尊攘派として大きな勢力を誇っていた薩摩は開国派に転じた。

薩摩は、面従腹背の道を選んだのである。

この知らせに、各地の侍達は衝撃を受けた。他藩が幕府との折り合いを決めかねて、表だった尊攘を掲げられない今、薩摩は実質的な彼らの旗頭だった。それがいきなり折れたとなれば、それまで薩摩と同じ尊攘を掲げていた攘夷志士たちは困惑するしかない。

そんな折、薩摩に継ぐ旗頭として立ち上がったのは、攘夷・倒幕の気風渦巻く長州藩であった。長州は長い間民衆と幕府に挟まれてどちらつかずの立場を貫いていたが、薩摩との戦争で天人側が痛手を負っている今が好機と見、幕府の弾圧を振り切り天人との全面戦争に踏み切ったのである。



寛政四年。



長州と天人との戦争が勃発してから一年後。
侍の抵抗と天人の火力が拮抗し、長期化した戦争の最中に、佳乃は居た。

御崎佳乃、十三歳。

彼女は、その後各々に待ち受ける運命(げんじつ)を、未だ知らない。







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